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チームのあるべき姿が凝縮されていた場面

 2020年のプロ野球はかつてない“静寂”の中で幕を開ける。新型コロナウイルス感染防止のため、当面の間は無観客で試合を実施。6月2日から始まった練習試合も同様で、取材する側としてはその「静けさ」にもすでに慣れてきた。ただ、それはファンにとってはライブでの応援の場が無くなり、選手にとっても歓声という“後押し”が消えることを意味する。シーズンに入ればあらためてその喪失感を互いに実感することになるのだろう。証明することはできないし、数字で測ることもできなくても、幾多のプレーヤーが口にしてきた「ファンの応援が力になった」を思い出すと、それは決して小さな存在ではない気がする。満員の球場でプレーする日がいつやって来るのか。開幕しても、しばらく日常が戻ることはないだろう。そんな選手とファンの間にできてしまった“距離”を埋められる存在が、他でもない矢野ガッツなのではないか。

 今でも鮮明に残る場面がある。昨秋のクライマックスシリーズファーストステージ第1戦。最大6点差を逆転するタイムリー三塁打を放った北條史也が、突き上げた左手にベンチ総出で呼応した瞬間は、取材する側としても胸が震えた。監督、梅野隆太郎、高山俊が両手を振り上げる「矢野ガッツ完全版」を披露していた。翌日のスポニチ関西版では2、3面の見開きでベンチの様子を撮影したパノラマ写真を掲載。レギュラーシーズンを6連勝で締めくくり、逆転でのCS進出を果たした19年の猛虎のまさに“最高到達点”を示す1枚だ。矢野監督が言葉と姿勢で示してきたチームのあるべき姿が凝縮されていた。

©スポーツニッポン

 あの熱狂、歓喜、興奮は画面や写真を介しても伝わるはず。だからこそ、仲間の士気を高め一体感を醸成してきた“決めポーズ”が、今年はより強いメッセージ性を帯びてくる。ファンは球場ではなくテレビ、スマホ、タブレットで試合を見守る。臨場感や喜びを分かち合う部分は生観戦に劣っても、今までスタンドからは確認できなかった選手の表情、ベンチの反応により視線が注がれる。

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 そう、今こそ出番なのだ。矢野ガッツは今年、チームメートだけでなく“おうち観戦”する全国の虎党に向けられる。あと数時間で、プロスポーツの先陣を切ってプロ野球が開幕する。小さくても、大きくても良い。タテジマの男たちが握りしめた拳が静寂を打ち破り、多くの幸せを運ぶ。さぁ、待ちに待ったプレイボールだ。

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