いまから65年前のきょう、1952年8月29日、アメリカの作曲家ジョン・ケージ(当時39歳)の作品「4分33秒」が、ニューヨーク州ウッドストックでの慈善コンサートで、ピアニストのデヴィッド・テューダーにより初演された。このときテューダーは、演奏を始める素振りを見せながら、結局タイトルと同じ時間のあいだ、まったく音を出すことなく“演奏”を終えた。
この曲でケージが説いたのは、音と沈黙の唯一の違いは、聴く意図の有無にあるということだった。ピアノを一切鳴らさずとも、集中して聴くことで、外で風がざわめく音や屋根に落ちる雨音など、周囲にあるさまざまな音が聞こえてくる。それら環境音もまた、ケージに言わせれば音楽だった。「音楽はいつも続いています。音楽を追い払うかどうかは私たちしだいです」と彼は宣言した(ケネス・シルヴァーマン『ジョン・ケージ伝』柿沼敏江訳、論創社・水声社)。
しかし初演された「4分33秒」の評判はさんざんだった。ケージの弟子クリスチャン・ウォルフの母親ヘレンは、初演に立ち会ったあと、「この種のことは、少年の悪戯で、人間の未熟な部分にしか訴えません」と不満を漏らした。大半の新聞でも酷評され、悪名が知れ渡ったせいか、ケージはその後しばらく、財団や大学に支援を求めても否定的な反応を受け続ける。いまでは20世紀の前衛音楽の代表作とされる「4分33秒」も、当初はまるで理解されなかったのだ。