中西部ミネソタ州のミネアポリスで黒人男性、ジョージ・フロイドさん(46)が白人警官に殺害されたことをきっかけに、全米各地で人種差別に反対する抗議デモが起こった。これに対し、ドナルド・トランプ大統領(74)は強権を発動し、州兵を動員して鎮圧を図ろうとしたが、結果的にそれが裏目に出た。抗議デモはさらに広がり、「反トランプ」運動へとつながっていった。いまや11月の大統領選では再選さえ危ぶまれる状況だ。
軍によるデモ鎮圧に抗議したのが、前国防長官のジェームズ・マティス氏(69)だった。国防長官辞任後、1年半の沈黙を破って、米「アトランティック」誌に寄せた「声明文」では、かつての上司を痛烈に批判している。
〈ドナルド・トランプは、私の人生で、アメリカ人を団結させようと努力をしない、いやそのふりさえしようとしない、最初の大統領です。それどころか、彼は私たちを分断させようとさえしている。そして今、私たちはトランプが意図的に分断を試みた3年間の結果を目のあたりにしているわけです。それは未熟な指導者の下で過ごした3年間の結果でもあります〉
アメリカにおける「分断」と「団結」
マティス氏のこの声明文の中で、繰り返し言及されるのが「分断」と「団結」というアメリカの歴史を理解するうえで欠かせない2つの言葉だ。
マティス氏は、建国時代の第4代大統領ジェームズ・マディソンの次の言葉も引用している。
「何十万人もの熟練した兵士を擁していても、分裂していてはアメリカは弱い。軍隊が少なくとも、あるいは兵士が1人もいなくても、団結していれば、アメリカは外国による侵略を封じることができる」(「ザ・フェデラリスト」第41編)
人種差別が、アメリカ社会を分断(分裂)させることは言うまでもない。マティス氏は、人種差別への抗議デモを「それは健全で、皆が求める要求であり、全員が支持することができるもの」と擁護する。そしてトランプ大統領による軍を使った弾圧に対しては、社会の分断(分裂)をもたらすものとして厳しく非難する。