新型コロナウイルスの感染拡大という特殊な状況下で行われた先の都知事選は、現職・小池百合子氏の圧勝に終わった。小池氏の勝利はある程度予想されたことではあったが、今回の選挙で衝撃的だったのは、過激な右派主張を繰り返してきたことで知られる日本第一党党首・桜井誠氏の約17万8000票という得票数だ。これは前回の都知事選と同じく全体で5位、得票数は6万票以上も増えた。

桜井誠氏 ©AFP/AFLO

 桜井氏は「在日特権を許さない市民の会」の元会長で、今回の都知事選では新型コロナをめぐり2年間の「都民税、固定資産税ゼロ」のほか、「外国人生活保護の即時停止」といった排外主義的な主張を掲げた。2013年~2014年には、在日朝鮮人の女性フリーライター李信恵さんについて、インターネット放送などで「朝鮮人のババア」などと発言し、李さんが民族差別的な発言で名誉を傷つけられたとして、在特会と桜井氏に計550万円の損害賠償を求めた訴訟で、発言の一部が違法と認められ、2017年には最高裁で在特会側の敗訴が確定している。

 桜井氏のような候補者が得票数を伸ばしたことを問題視する向きも多い。ただ、その状況を批判することは容易いが、どんな人々が桜井氏に投票したかを知ることも必要だろう。今回は、いずれも桜井氏の運動や団体に関係していない一般の有権者3人に、なぜ桜井氏を支持したのか話を聞いた。(取材・文=常田裕/清談社)

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「わかったうえで投票したんです」

「僕は別に政治に明るいわけではないし、主義主張もない。選挙も前回の参院選に行ったくらいで、これまでちゃんと選挙について考えたことはなかったんです。ただ桜井さんがレイシストだとか、差別主義者だとか色々言われているのはわかっていましたし、わかったうえで投票したんです」

 こう話すのは印刷会社勤務の青井幹夫さん(仮名・47歳)。今回の選挙まで桜井氏の名前も知らなかったという。

「正直、これまで桜井さんのことは知りませんでした。たまたま友人とのやり取りの中で名前を聞いたのかな。それで『桜井誠って誰だろう?』と思ってネットで調べてみたら、橋下徹大阪市長(当時)との意見交換会が十分弱で物別れに終わる動画を見て、面白いなと。刺さったのが、『だったらやってみろよ、男だったら一対一で! なんだよこの警備は。人に命守ってもらわなきゃ何もできないんだったら、最初から言うな!』という場面。男気あるなと思いましたよ」

青井幹夫さん(仮名) ©常田裕/清談社

 最初は面白がっていただけだったが、その後も桜井氏の動画をネットで漁るようになると、徐々に自分の中のある指向に気付いたという。

「正直、右とか左とか主張できるほどわかってもいないし、自分でも意識はしていなかった。話を聞いているうちに桜井が掲げる外国人生活保護の停止や、パチンコ規制といった主張に少しずつ共感できたんです」