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哲学者か変わり者か……ホークス・大竹耕太郎という個性

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/08/23
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「心の健康が一番だなって」

 今年はキャンプ中に左肘の肉離れを発症したことで出遅れ、開幕からしばらくは二軍暮らしが続いた。大竹に出来ることはひたすらアピールすること。140キロそこそこのストレートだとしても、相手を圧倒し続けた。ウエスタン・リーグで4勝0敗、防御率1.98と抜群の成績を残したところでようやく一軍からお呼びがかかった(その時点でウエスタン・リーグの投手三冠だった)。

 8月13日のオリックス戦で昇格し、当日に即先発した。「緊張すると思う。でも、一軍でも同じように投げたい」。プレーボールから2球目、まさかの先頭打者本塁打で出鼻をくじかれた。だが、今年の大竹は崩れない。一発に動じることなくテンポよくアウトを積み重ね、それ以降は失点を許すことなく3対1と2点リードの六回2アウトまで投げ抜いた。イニング途中の降板は悔しかったが、久しぶりのPayPayドームの舞台で6回途中1失点ならば上出来だった。

 大竹からバトンを受け取ったリリーフ陣が無失点リレー。最後は抑えの森唯斗がしっかり締めると、緊張しながらダグアウトで見つめていた大竹の表情が一気に緩んだ。

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 昨年6月20日以来、420日ぶりの白星。待望の今季1勝目を手にした瞬間だった。

 ところで、その日の試合後、大竹がまた面白いことを言っていた。

「今までは技術が一番。技術さえしっかりしていれば、気持ちの不安などがあっても大丈夫と考えていました。だけど、今年は順番が逆。だから妙なルーティンも作らない」

 去年は雁字がらめだった。たとえば食事にも細心の注意を払い、登板前日は脂っこいものは厳禁だった。

 じつは大竹は無類の餃子好き。それも我慢の対象になっていた。

「だけど、それって良くないかな、と。今年はゆとりをもって、食べたいときに、食べたいものを食べる。我慢して体にいいものを摂っても多分体に良くないんですよ(笑)。心の健康が一番だなって」

 ということは登板前の餃子が原動力の一つになったというわけか。

「昨日の夜は冷やし中華の棒棒鶏風でした。それと芋入りの味噌汁を」

 ズッコケそうになった報道陣。いや、ちょっと待てよ。冷やし中華に味噌汁? その組み合わせってどうなの……。

「僕、味噌汁大好きなんで、何でも大丈夫。なんならパンが出てきても味噌汁に浸して食べれるくらい好きなんで!」

 やっぱり少し変わっているのか(笑)。まあ完璧すぎる人間よりも、これくらいの方が愛嬌があっていい。

 2度目の登板となった19日のロッテ戦は5回2失点で勝ち負けがつかなかった。チーム事情があったにせよ中5日の登板で、しかも捕手が前回と違い、翌日には出場選手登録抹消というのは少し気の毒な感じもしたが、シーズン後半に向かうこれからの戦いの中でも背番号10の左腕はホークスに欠かせぬ存在となってくれるはずだ。

 大竹は、大竹らしく。それでいいんじゃないか。それが、いいんだ。

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