2020年上半期(1月~6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。ビジネス部門の第5位は、こちら!(初公開日 2020年月日)。

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 日本を訪れる外国人観光客は、いまや年間3000万人を超え、街の景観のみならず、我々の社会のありようを変えつつある。訪日外国人の旅行消費額は年々増え、年間4兆5000億円超という観光庁の統計も出ているほどだ。訪日外国人の増加は国内にさまざまな経済効果をもたらすと考えられ、現在に至るまで数多くの誘客施策がとられている。

 しかし、外国人観光客の数的拡大はいいことづくめなのだろうか。観光公害やオーバーツーリズムという言葉を聞く機会も増えてきた。2020年、政府は訪日外国人数4000万人という目標を掲げていたが、今年は新型コロナウイルスの影響で壊滅的な打撃を受けそうだ。それでも、日本はこれからも観光客誘致を続けるべきなのか……。

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 インバウンドについて考えを巡らせる手助けの一つとして、前編では『間違いだらけの日本のインバウンド』で取り上げられる、クルーズ客船で日本を訪れる中国人の姿を紹介する。

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東シナ海は中国人のためのレジャーの海に!?

 中国人観光客の増加にともなう問題は海の上でも起きていた。

 いまや東シナ海は中国人にとってのレジャーの海になっているかのようだ。

 そういうと、なかには胸騒ぎを抑えられない人もいるかもしれない。だが、今日、九州の博多港や長崎港などへの中国発クルーズ客船の大量寄港ラッシュをみるかぎり、それは現実のものとなっている(※2020年1月27日以降、新型コロナウイルスの影響で中国発クルーズはストップしている)。なにしろ2016年には博多港に過去最多の328回ものクルーズ客船が寄港した。その大半が中国発である。実際には、1日2隻寄港するケースもあるが、年間を通してほぼ毎日のようにクルーズ客船が訪れている計算になる。

中国発のクルーズ客船「カンタム・オブ・ザ・シーズ」  ©扶桑社

 中国発クルーズ客船の博多港寄港は2008年に始まる。初めて寄港したのは、ロイヤル・カリビアン・インターナショナル社(米)の客船だ。同年4月に大型客船「ラプソディ・オブ・ザ・シーズ」が初入港した際は、歓迎式典が行われている。つまり、中国人の東シナ海クルーズ旅行の火付け役は、欧米のクルーズ会社だった。彼らがこの市場に商機があるとみて参入し、結果的に大盛況となったのだ。

博多に急増する中国人観光客

 博多港は上海港から約900km、釜山港から約200kmと、中国・韓国の主要港と近接しているため、日中韓3か国をめぐる5日間のショートクルーズの主要目的地として選ばれたのだった。仮に大阪や横浜に行きたくても、そこまで距離を延ばすと5日間のクルーズが成立しない。ではなぜ5日間なのか。中国の消費者にとって日程的に参加しやすく、ツアー代金も手頃に抑えられる範囲だからだ。

©扶桑社

 福岡で中国発クルーズ客船の話題が盛り上がったのは2010年。上海万博の年で、全国で中国人観光客の「爆買い」現象が話題になり始めていた時期と重なっている。

 当時の様子を伝えるこんな記事がある。

 九州に寄港する中国発のクルーズ船が急増している。7月から中国人の個人観光ビザの発給用件が大幅緩和されたことも追い風となり、割安な船旅で海外旅行を楽しむ中流層が増えているためだ。しかも旅の主目的は「お買い物」。不況が長引く日本にとって、一隻につき数千人規模で押し寄せる中国人観光客は、まさに“宝の山”。自治体も民間も、あの手この手でクルーズ船の寄港先争奪戦に奔走している。

「クルーズ船急増 買物中国人 福岡席巻」(東京新聞2010年8月13日)