技術が下手なAV監督が撮ったほうがエロい
川崎 本当にバリエーションが豊かだし、ひとつひとつの春画に物語がある。
二村 そう。一枚の絵の中に、ストーリーも、オチも、詞書というセリフもある。そういう意味では完全に漫画だよね。こういう絵画は西洋では存在しないんじゃないかな。
春画は変な体位というかさ、全体のデッサンが狂ってるじゃないですか。でも、下手くそな絵の方が何となくエロいというのは、今のAVにも通じるんですよ。カット割りがうまいとか、映像としてきれいなものを撮る監督の作品はあんまりエロくないんですよ。下手くそな監督の方がエロい。
川崎 へー。リアリティがないからなんですか?
二村 なんでだろうね(笑)。さらに言えば、春画は顔と衣装と性器を全部ちゃんと見せようとして描いているから、非常に不自然な構図なんだけど、この不自然なことは僕らも仕事でずっとやっていて、当時の絵師たちとやってることは一緒だなと思いました(笑)。たとえば、すのこからおちんちんだけ出して、その上に女性が乗っかっている絵(『床の置物』墨摺大本)があるじゃないですか。
川崎 これは私も笑いました(笑)。
二村 実は以前、監督としてこれの上下逆の作品を撮ったことがあるんだよね。ハンモックや電車の網棚の上に男性がうつ伏せに寝て網目からおちんちんを下に出すという(笑)。あと、男がふすまからおちんちんだけ出している絵(『恋の花むらさき』墨摺手彩色大本)があるじゃないですか。ソフト・オン・デマンド(AVビデオメーカー)の人気シリーズに、壁からおちんちんだけ生えていてそれで女の子が遊ぶというAVがあって、これも非常に売れているんです。
川崎 私、これを見て江戸時代の人はバカだなと思って笑ってたんですが、今でも同じようなことをやってるんですね(笑)。
二村 そう、数百年経ってもまだ同じことをやってます(笑)。しかも今のAV監督はこの春画をパクってるわけじゃなくて、今の時代にこれを思いついてやっているんですよね。そこが面白い。
あと、さっきも話に出た、男性と男性と女性の3人でセックスをしている絵(『若衆遊伽羅之縁』墨摺大本)のようなことを若い頃に、監督じゃなくて男優としてやりました。男優対ニューハーフ対女優というシチュエーションで、真ん中に挟まれてるニューハーフがおしりに入れられながら、女性に自分のちんこを入れるという構図。これは女性に対してもちゃんと勃起するニューハーフじゃないとできないから、なかなか難しいんですよ(笑)。こういう匠の技が現代のAVやエロ漫画、BL漫画などに脈々と受け継がれているんだよね。
もっというと、女装した男性に男性が挿入している絵(『風流 艶色真似ゑもん』)がありますが、明日、まさにこういうAVを撮るんです(笑)。
川崎 あはは。ほんとに江戸時代から進化してないですね(笑)。
二村 時代とメディアが変われど、日本人は同じことをやってるってことだよね。さまざまな性具が紹介された絵(『女大楽宝開』墨摺半紙本)もあるけど、基本的に今と変わっていないよね。テクノロジーによって電気で動くようになったり、精巧になったりしてるけど江戸時代にあったものは、今も全部あります。
川崎貴子(かわさき・たかこ)
1972年生まれ。1997年、人材コンサルティング会社(株)ジョヤンテを設立。女性誌での連載、執筆、講演多数。著書に『上司の頭はまる見え。』(サンマーク出版)、『愛は技術』(ベストセラーズ)。最新刊は『私たちが仕事を辞めてはいけない57の理由』(大和書房)。ふたりの娘を持つワーキングマザーでもある。
二村ヒトシ(にむら・ひとし)
1964年、六本木生まれ。幼稚舎から慶應義塾で育ち、慶應義塾大学文学部中退。アダルトビデオ監督。女性側の欲望・男性の性感・同性愛や異性装をテーマに革新的な作品を発売。著書に『すべてはモテるためである』『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(イースト・プレス)、共著に『オトコのカラダはキモチいい』(KADOKAWA)、対談集『淑女のはらわた』(洋泉社)。
構成 山下久猛(フリーライター)