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神宮球場のカレー屋さんが明かすスワローズ「近藤カレー」誕生秘話

文春野球コラム ペナントレース2020

 文春野球ファンの皆さん、スワローズファンの皆さん、はじめまして。私は神宮球場三塁内野コンコース「スタジアムカレー」のカレー店主・神宮のカレーおじさんと申します。カレーが大好きな監督さんにオファーを受け、文春野球でちょっとしたコラムを書かせていただくことになりました。今日は2020年のコロナ禍で経験したカレー店主の駄話を披露させていただきます。しばしおつき合いください。

 改めまして、読者の皆さんこんにちは。そしていらっしゃいませ!

著者(左)

 野球のメッカ・神宮球場でスタジアムカレーを構えて3年目になる「スタジアムカレー」の店主・神宮のカレーおじさんです。3年目なので文春野球さんの1年後輩ですね。実年齢はアラフォーからアラフィフに差し掛かる頃ですが、毎日忙しい生活を送っています。

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日本中の野球場のカレーライスをレベルアップしたい

 皆さんはこれまで「めちゃマズいカレー」を食べた経験ありますか?

 きっと、ないですよね。カレーって大ハズレがないですから。同じように「最高に美味いカレー」って、なかなか出会えないですよね。私たち日本人にとってカレーは国民食。シンプルだけに、奥が深いんです。

 実は、カレーってすぐ表情を変えるんです。その日の火加減、水加減、気候、野菜の甘味、具材によっても簡単に変わっちゃう。だから毎日シンプルに、ただひたすらに美味いカレーを求めて、今日も私は神宮球場のキッチンでカレーを仕込んでいます。

 私の店「スタジアムカレー」は、神宮球場三塁側の内野コンコースにあります。スワローズファンの方、ビジターファンのみなさん、アンパイアの方々、ときには警備員にガードされながらビジタークラブハウスから試合前の選手たちも買いに来てくださるんですよ(とくにドラゴンズの選手の皆さん、ご贔屓ありがとうございます!)。街場のレストランでは絶対に経験できないバラエティに富んだお客様に囲まれながらの毎日に感謝しています。

 私たち「スタジアムカレー」のこだわりは、とにかく「寝かす」こと。

 料理は冷えていくときに、うま味が加わる。煮物もそう。一度冷やすことによってうま味が浸透する。だからうちの店では、作り立ての“フレッシュなカレー”は絶対に出していません。この前、知り合いの子とLINEをしてたら「野球場のカレーはレトルトのイメージです」って返信がきた。しめしめ!と思いました。日本中のスタジアムのカレーライスのレベルをアップしたい。これが私の夢であり、目標です。

 例えば、うちが街場のレストランなら、火入れをしながら、継ぎ足し、継ぎ足しでカレー店はつとまります。だけど、ここは野球場。厨房スペースや設備、そして準備の時間には限りがある。だからうちは、試合前に全力で準備して、万全の状態でスワローズの試合や学生野球を迎えます。

 今年は7月の有観客試合からはじまって、徐々にお客さんが戻ってきました。無観客の開幕から、最初は5000人から始まり、現在の神宮球場は14500人。そのうち内野席の入場者数はその半分と決まっていて、今シーズンは2500人から7500人のお客さんを相手にカレーをふるまっています。

 コロナ前も今も、神宮で6連戦があるときなど、うちは事前に大量のカレーを仕込みます。開門直後の16時半から、プレイボールのかかった18時すぎの約2時間で、スタジアムカレーは300食くらい売れます。対戦カードや天候によっては、もっと売れる日もあるけど、平均すると2時間で300食。6連戦で約2000食。実は、それをあの狭い厨房で、すべて手作りで提供しています。

 6連戦前に、どれくらいのカレーを仕込むかというと、45リットルの寸胴(ずんどう)鍋3個と、15リットルの鍋が4個。これだけを準備して、連戦初日を迎えます。

 ごはんにかけるカレーの分量は、レードル1杯約200ml。300食だと60リットル。鍋にカレーはなみなみ入れられないから、45リットルの鍋に15リットルの鍋、それに小型の10リットル鍋でやっと300食。こうして連戦の初戦を乗り越えるんです。

 なにしろすごいんです、その量が。レストランの比じゃない。毎日がお祭りのようです。

45リットルの寸胴がすぐに空になる

 その点、観客数が制限された今シーズンは45リットル鍋が1個あれば、2試合はもつ。あとは当日、小鍋で作りながら、ルーを足していく作業を繰り返します。だけど足すときは、前日に作ったカレーに足していく。その日に作ったカレーは、当日は絶対に出さない。スタジアムカレーはこれを徹底しています。ですから神宮球場には、ほかの店主さんよりも仕込みや準備で一番多く足を運んでいるかもしれないですね。

かつては神宮球場を目指す球児だった

 私の職場・神宮球場とは、不思議な縁で繋がっている気がしています。かつて私は、都内の高校球児でした。ここ神宮を、そしてその先の甲子園を夢見た高校時代を送っていました。スタジアムカレー店主となって3年目ですが、自分の職場が神宮にあることが、まだ不思議な気持ち……こればっかりは、なかなか慣れないんです。

 現役時代は、あと一歩で甲子園を逃し続けた3年間でした。高1の夏は決勝で敗れ、高2の夏は準決勝負け。先輩たちの涙をここ神宮で見てきました。神宮を越えて、甲子園に行くぞ! と誓った自分たちの代はまさかの5回戦敗退。甲子園はおろか神宮にも届かず、八王子市民球場で最後の夏を終えたのは、ほろ苦い思い出です。

 高校を卒業して、ホテルオークラ系のレストランに就職しました。大学に進学して神宮で野球を続けることも考えましたが、食の道を選んだのが、カレーとの出会いでした。

 これまでぼくが食べた一番おいしかったカレーは、「オークラ」のカレーライスです。食べやすくて、だけど品のあるカレー。素直に感動したし、いつか自分もこんな味を作りたいっと強く思いました。そして、こんな味をお客さんに食べてほしいって。それが今のスタジアムカレーの原点です。

 オークラで4年間修業したあとは、フレンチ、和食を経験。一流のサービスを提供できる接遇のプロフェッショナルとして、食の世界でのキャリアは20年を超えました。

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