開門すると、私は基本的に、列整理や呼び込みなど、ずっと店の外にいます。「食」って、食べる前のちょっとした雰囲気づくりや、調理するスタッフのやる気が大切だからです。三塁側のコンコースを明るくしようと思って、外に立っています。
ここはプロ野球を楽しむ、祭りの場。そこに食べ物があって、飲み物があって、何万人のファンたちが毎日、プロのプレーに酔いしれながら、祭りを楽しむ場。ぼくらはあくまで主役を引き立てる「付加価値」にすぎない。
だけどその付加価値のレベルが上がれば、神宮球場はもっといい球場になる。いい球場には、いいファンが来てくれる。それはやがて文化となる。野球観戦やスポーツ観戦が、日々の暮らしに欠かせない文化となって根づいていく。だから神宮のカレーおじさんは、やめられないんです。
「カツはごはんの中に!」近藤カレー開発秘話
うちの店は今シーズン、スワローズの選手プロデュース商品を4つ出させていただいています。中でも、近藤一樹投手の「近藤カレー」(1100円)はごはんの中にカツが入っている人気商品です。カツが隠れたごはんの上に、カレーをかけて、温玉のせて、チーズかけて、最後に食べるラー油をかけて、提供します。
近藤カレーを開発した当初は、近藤一樹投手のあの切れのある速球をイメージ。温玉に食べるラー油をかけて“炎の速球”としていました。実際、近藤投手にサンプルを届けたら、思いがけないアドバイスをいただいたんです。
「僕はそんなに簡単に勝てるピッチャーじゃないんです」。
「どちらかというと、僕は、ピンチを乗り越えて、乗り越えて、やっと勝利をつかむピッチャーです。だからカツ(勝利)は、ごはんの中に入れてください!」と。
普通のお店では上に乗っているカツ(勝利)が、ごはんに隠れているのは、そういう訳なんです。嬉しいですよね、プロ野球選手から、そんな風にアドバイスをもらえるのは。食人冥利に尽きます。近藤カレーのメニュー開発は、スタジアムカレー1年目の終盤だったんですが、3年目を迎える今季は、「スタジアムカレー」の定番商品に成長しました。
今年、近藤投手がファームで調整してた時も、近藤カレーは売れ続けました。さすがは高校時代、神宮で勝って、甲子園でも勝って、日本一になった近藤投手ですよね。八王子で負けた私とは段違い(笑)。でもいまの私には、近藤投手が託してくれた「小さなストーリー」を、選手の代弁者としてメニューで表現できる。だからこれからも、神宮球場三塁側の「スタジアムカレー」は、いろんな挑戦を続けていきます。
スタジアムのカレーを、文化にしてみせる。神宮球場のグルメのレベルを、日本一にしてみせる。
高校三年間の夢舞台だった神宮球場に、この齢になっても毎日通える幸せ。だから私は、これからも「スタジアムカレー」でいろんな思いを表現していこうと思います。お声がけいただければ「文春割」もしますので、読者のみなさん、神宮球場で野球観戦の際は、ぜひ三塁内野席「スタジアムカレー」をご贔屓に!
店主敬白
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