酷道における“束の間の休息”
やがて剣山の登山リフト乗り場が近づいてくると、お土産物屋が軒を連ねていた。標高1400メートルの酷道沿いに、複数のお店があり、営業しているというのは、何とも不思議な光景だ。ここを過ぎると、道は峠を下りはじめる。
難所を過ぎると道はなだらかになり、集落が点在するポイントに差し掛かる。その中には、リアルすぎる“人”が畑の中に佇んでいる「かかしの里」という名所もあった。
とはいえ、ここは酷道だ。なだらかな道はすぐに終わり、また次の峠に差しかかる。ヨサク最大の見せ場・京柱峠だ。
本当にここを車で走るのか……?
ここは先ほどの剣山とは路面の様相が大きく異なっている。舗装は剥がれ、それを覆い尽くさんばかりの落ち葉が堆積している。道幅は車1台分ギリギリで、対向車が来たら途方に暮れることになる。また、木々が茂っているため、辺りは昼間でも薄暗い。林道にしか見えないが、これでも立派な国道なのだ。
ここまで徳島県を走ってきたが、この京柱峠が県境となる。峠から見えるのは、これから走る高知県の山々だ。酷道を走っていれば、山々を見下ろす絶景に出会うことも少なくない。今回も雄大な眺めなのだが……しかし、京柱峠からの光景には、何か違和感があった。
しばらく考えていると、違和感の正体に気付いた。よく見ると、山の所々に民家が点在しているのだ。通常、山深い峠では、民家など1軒も見当たらない。それがここ四国では、こんなにも一面の緑の中に民家がポツンポツンと存在している。
気になったら、行ってみるしかない。京柱峠を下りつつ、そこにはどんな人が住んでいるのだろうかと、想いを馳せた。そして1日目の酷道ドライブはここで終了することにした。