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ここは一度、無人集落になっていた
お婆さんによると、この集落にはかつて数十軒のお宅があったが、全世帯が移転し、一度は無人集落となってしまったそうだ。実はお婆さんもそのときに街に引っ越したが、結局は生まれ育ったこの集落に、一人で戻ってきたのだという。そこには、郷愁とともに、息子夫婦に対する気遣いも感じ取れた。
つい話し込んでしまい、気が付けば2時間が経過していた。その間にすっかり汗も引き、美味しい湧き水をいただいて山を下りた。
下山後、久々にヨサクをロングドライブし、最後の難関・杓子峠に到達した。道幅は狭く、路面は苔むしているが、ここまで来るともうすっかり見慣れた光景になってしまった。なんなら、少し物足りないぐらいだ。難なく峠を越えて、旧中村市街へと入ってゆく。久しぶりにみる大きな街に興奮しながら、国道439号の終点に到着。これで、今回の旅は終わった。
酷道はゆっくりと走ることしかできないが、だからこそ見える風景や、人との出会いがある。ヨサクは、単に道が酷いというだけではなく、人の生活とも密接に関わっていた。そこに暮らす人々との距離が近いというのも、ヨサクの大きな魅力に繋がっている。このときも、突然訪れた私に対して、沿道の方々はとても親切にしてくださり、そして色々な話を聞かせてくれた。本当に、感謝しかない。
精神的に追い詰められるにも関わらず、何度でも訪れたくなる酷道。ヨサクにまた、会いに行こう。
撮影=鹿取茂雄