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「楽するなよ」 西武・上本達之コーチの教えは僕の“大将”萩本欽一と同じだった

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/10/17

“やめない”才能を育ててほしい

 芸能界に新たに入ってくる人たちにも、プロ野球選手のように“ゴールデンルーキー”や“育成枠”という位置づけはあります。例えばアマチュア時代からテレビに出て評判になり、事務所に入った関根勤さんや小堺一機さんは“ゴールデンルーキー”。とんねるずさんもそうでしょう。あるいは二世タレント、例えば東八郎さんの息子の東貴博さんもそうだと思います。

 対して僕は“育成枠”です。

 これは後日談として、事務所のスタッフさんから10年くらい前に聞いた話です。今から約30年前、僕は欽ちゃん劇団のオーディションを受けました。

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 当時、立ち上げた欽ちゃん劇団が1期生を募集すると、3000人の応募があったそうです。書類選考で1000人に絞られ、合格できるのは100人。オーディションが行われ、99人まで決まりました。

 あと1人をどうするか。スタッフにそう聞かれた欽ちゃんは、「一番若い子を残しておいたら」と答えたそうです。「22歳くらいまでは芸がしっかり身につくから」と。最終オーディションには16歳の候補者が数人いて、欽ちゃんが唯一チェックをつけていたのが僕でした。それで合格することができたんです。

 もしかして、僕は合格していなかった可能性もあります。99人でもいいじゃないですか。でも「100人合格」とするほうが、新聞の見出しなどでは決まりがいいというか。僕が合格したのは、それくらいの理由でした。

 だから僕も“育成枠”出身です。そんな自分が同じ立場から中熊選手にメッセージを送らせてもらうとすれば、大事なのは「やめないこと」です。

 芸能界で30年やっていくなか、欽ちゃんに言われたことがずっと頭の中にありました。

「お前、才能ないのに、全然やめないのな。これって重要なんですよ。いくら才能があっても、やめちゃう人たちをいっぱい見てきた。でも、お前には“やめない”という才能だけはあるんですよ~」

 芸能界とプロスポーツの世界は、もちろん違います。一番の違いは、年齢制限があるかどうかでしょう。

 中熊選手について言えば、「やめる・やめない」は球団が決めることかもしれません。でも、いろんな意味で努力をやめないでほしい。監督やコーチから言われたことを、やめないで続ける。やめない才能を持ち、育ててほしいんです。

 僕は埼玉に生まれてライオンズファンで、ずっとライオンズの仕事をやりたいと思い続けて努力してきました。それから数年後、テレビ埼玉の番組からオファーをいただきました。もしも芸能界をやめていたら、大好きなライオンズの仕事もできなかった。やめずに続けたからこそ、小さな光が差し当たりました。

 今、中熊選手に何か信じて努力していることがあるなら、それをやめずに続けてほしい。そうすれば、隙間から差し込む光をいつか見つけられるはずです。

「楽するなよ」――。

 僕が欽ちゃんに言われた大事な言葉です。同じことを上本さんに言われてきた中熊選手が、育成枠から、いつかランディ・バースのように羽ばたく日を楽しみに待っています。

構成/中島大輔

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