1.立地
建替え後のマンションにも十分な不動産価値があれば、分譲部分を高値で売却できる。高値で分譲できれば、建替えにあたって区分所有者の追加負担は少なくなる。マンションは、建物部分について経年で劣化してしまうので不動産価値はどんどん下落してしまうが、土地の価値が保たれている立地であるならば、建物さえ新しくすれば、現在の時価で販売することができるのだ。
2.区分所有者の多くが富裕層であること
建替えにあたっては区分所有者が経済的に困窮していないことが必要だ。高齢化等により健康を害していても、建替え期間中は医療機関や他の施設に移転ができるなどの条件がそろうことが求められる。また、容積率緩和が十分でなく、建替えにより新たな追加負担を求められたとしても負担できるだけの経済的余裕があることが建替えを可能にする。
3.「代替わり」が行われていること
四谷コーポラスの区分所有者はその多くが、途中で第三者に売却されずに相続されてきたそうだ。そして二代目、中には三代目が実際に住んでいるという。棟内に展示されていたマンション内の写真を見ると、築30年以上を経過した1988年当時の写真でも大勢の子供たちが棟内を駆け回る姿が写し出されている。
相続されたうえで、子供や孫たちが実際に「住んでいる」ということは、マンションが故郷となり、所有者に愛されているということの証左だ。
4.コミュニティーが保たれていること
上記に加えて戸数がわずか28戸という小所帯であることから、「昔からよく知る」人たち同士でコミュニティーが形成され、しかも三世代にわたる老若男女が自分たちの資産であるマンションの不動産価値をアップさせるために「建替え」という手法を選んだことが容易に想像される。
郊外の高齢化マンション、湾岸の巨大タワマンの末路
さて、建替え率1%のマンション。上記のような要素が備わった物件はどれほどあるだろうか。郊外立地で子供や孫には見向きもされなくなったマンション、一棟が数百戸もあり中国人投資家が闊歩する湾岸タワーマンション、高齢者ばかりで何事も決められない管理組合、クレームばかりでコミュニティーに参加しない区分所有者の存在。これらのマンションで、築30年を超えても三世代の老若男女が集い、築年数が60年の還暦を迎えるときに、全員で自分たちの財産を守り抜こうという気持ちになれるであろうか。
マンションを買うということは「コミュニティーを買う」ことと同義なのだ。