「身なりは綺麗で路上生活者には見えなかった」
大林さんが亡くなった時、「身なりは綺麗で路上生活者には見えなかった」(捜査関係者)というが、所持金はわずか8円だった。持ち歩いていたキャリーバッグと手提げカバンには衣類や食べ物などが詰められていた。
「捜査1課が大林さんの経歴を調べたところ、広島市の出身で、結婚した形跡もなく子どももいない。今から3年ほど前に東京都杉並区のアパートを退去し、スーパーマーケットの販売員を仕事にしていたが、それも今年2月に辞めたことがわかった。ただ、いつから路上で生活をしていたのか、どうやって生活費を得ていたのか。彼女の人生の大部分は謎のままだ」(捜査関係者)
所持していた運転免許証は期限が切れており、記載されている住所には住んでいないため、捜査1課が大林さんの身元を特定するまでに事件発生から3日間を要した。最終的に、埼玉県に住む弟に大林さんの顔を本人で間違いないか確認してもらい、広島県内の介護施設に入っている母親にDNA型鑑定の協力を得ることになった。
肉親2人にたどり着く手がかりの一つになったのが、大林さんの持ち物の中にあった名刺ほどの大きさで、親類の連絡先などがびっしりメモされていた1枚のカードだ
「弟とは10年ぐらい音信不通だったようだが、助けを求めるよりも迷惑をかけたくない気持ちの方が大きかったのかもしれない。所持品の中には、電源の入らない携帯電話もあった。メモもそうだが、『社会とつながっていたい』という思いがにじみ出ているようで、胸が苦しくなった」(捜査関係者)
吉田容疑者が逮捕された日から、現場のバス停には大林さんの急死を悼む人たちが献花に訪れるようになった。大林さんの弟も訪れ、手を合わせたようだ。食べるものに困っていただろう大林さんを案じる思いが込められているのか、積み上げられた花束の側にはパンや温かいお茶も供えられていた。
「『邪魔だからいなくなって』という理由で殴ってよいわけがないんです。新型コロナウイルスの感染拡大で、今や誰もが生活困窮に陥るかもしれないと思うと、身につまされる。大林さんのような人たちにも寄り添える社会であってほしいです」
献花にきた女性は涙ぐみながら語った。