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映画「ワンダーウーマン」から読み解く「社内事情あるある」――ダイアナの正体は花咲舞だった!?

サブカルスナイパー・小石輝の「サバイバルのための教養」

2017/09/24
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花咲舞は、女性行員のコスプレをしたワンダーウーマン

 こうした「女性の突破力と男性の自己犠牲」という協働関係を、「ワンダーウーマン」に先立ってエンタメ化したのが、2014年と2015年に日本テレビ系列で放映されたドラマ「花咲舞が黙ってない」だ。

花咲舞を演じた杏 ©文藝春秋

 舞台は大手都市銀行。主人公の女性行員花咲舞は、上司を上司とも思わぬ性格だが、情には厚く顧客や同僚から慕われる。彼女はなぜか窓口係から、銀行内の不祥事を調査する「臨店チーム」に抜擢され、出世コースから外れた男性上司・相馬健と共に、行内のさまざまな理不尽に立ち向かう――。

 相馬が、「手柄は上司のもの。ミスは部下のもの。それが銀行の常識ってことだ」「たとえどんなに正論でも銀行では通用しないってことがあるんだ」と組織の歪みを受容しようとするのに対し、花咲は「理不尽なことを言われて苦しんでいる人を見て、黙っているのが銀行の常識ってことですか」「そんな常識なんて、くそっくらえ!です」と激しく反発。人件費カットのため退職を迫られるベテラン女子行員や、上司の不正の尻ぬぐいで左遷されようとしている若手行員を、独断専行で救おうとする。

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 お気づきだろうか。これって、塹壕戦を目の当たりにしたダイアナとスティーブのやりとりと、まるっきり同じ構図なのだ。

 で、スティーブがダイアナの熱意にほだされてサポート役に回ったように、相馬も次第に花咲に共感し、その経験と頭脳を生かして花咲をサポートしてゆく。その結果、相馬は花咲以上に社内の上層部からにらまれ、「自らを危険にさらす=自己犠牲を強いられかねない状況」に陥っていくのだ。

 ハリウッドが「花咲舞」をぱくったとも思えないから、こうした「女性と男性の新たな協働関係」は、洋の東西を問わず人々の新たな理想像となりつつあるということだろう(そう言えば、「花咲舞が黙ってない」の原作である池井戸潤作「不祥事」の実業之日本社文庫版表紙は「女性行員のコスプレをしたワンダーウーマン」みたいですね)。

不祥事 (実業之日本社文庫)

池井戸 潤(著)

実業之日本社
2016年2月20日 発売

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 そして、もう一つのミソとなるのは、こうした協働関係では、サポート役に回る男性のプライドは決して傷つかず、むしろ「全体像を把握し、女性をうまく使っているのはオレだ」という秘かな満足感も味わえることだ。

 逆に意識が高い女性の一部は、作中の「男性の潜在的上から目線」に敏感に反応し、反発するかもしれない。この映画は「主人公が過剰に性的」として国連職員らから批判されたが、女性論的な視点から一番問題になりそうなのは、実はそうした作品構造自体ではないか。
http://digital.asahi.com/articles/ASK9700V6K96UHMC004.html

 もっとも、ハリウッドという男社会で、「ワンダーウーマン」監督の座を射止めたジェンキンスは、「そうした『男受け』の要素こそ、企画を通し作品をヒットさせるには不可欠」という醒めた判断で、こうした構図をあえて採用したように思える。

「ワンダーウーマン2」も続投予定とされるパティ・ジェンキンス監督 ©getty 

 女性的な「突破力」と男性的な「俯瞰力、状況判断力」の両方を備えた彼女こそ、真の「ワンダーウーマン」ではないだろうか。

INFORMATION

「ワンダーウーマン」
8月25日(金)全国ロードショー 3D/2D/IMAX
ワーナー・ブラザース映画
wwws.warnerbros.co.jp/wonderwoman/

映画「ワンダーウーマン」から読み解く「社内事情あるある」――ダイアナの正体は花咲舞だった!?

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