“水シャワー”でお灸を据える
自然、逃げられないと悟った女たちはいかに島での生活を快適にするかに全力を注ぐようになる。長くいればいずれチーママになることができ、自由が得られる。こうして女たちは逃げる思考を奪われていくのだ。
が、それでも脱走を目論む女がいる。
「俺が売り飛ばした女で、海に飛び込んで泳いで逃げようとした21才がいた。ロングで仕事に就き、夜中の2時頃、客がシャワーを浴びている隙に部屋を飛び出した。
その数分後に客から店に連絡があり、手分けして島中を探したがいなかった。島にいないことが分かれば、すぐに対岸に連絡が入る。で、女が海を渡りきって防波堤に手をかけたところで捕まえたんだ」
こうした女には“水シャワー”でお灸を据える。部屋のガスを止めて温水を使えなくする体罰だ。この水シャワーには警告の意味もある。
「チーママが女の不穏な動きを察知してママが指示するんだけど、それがバレてるよと知らせる合図にも使う。島に長くいるコはそれを知っているから、水シャワーになれば自ずと態度を改めるの。同時に私のところにもママから連絡が来るから、女に電話して、悩みを聞いてやってね」
Xがブローカーから足を洗うことになったのは、1年が過ぎた1998年5月のことだ。爪を伸ばし、ある女を、バンスを手にしたらすぐに島から逃がし、また新たな女を入れてバンスをせしめる悪事を働いたのが運の尽きだった。逃がした女に警察に駆け込まれ、挙げ句、売春島への斡旋をチンコロされ御用となったのだ。
「逃がした女をソープに沈めてさらに稼がせていたから、さすがに罰が当たったんだろうね。当時は置屋が8軒で、女は100人くらい。しかもすべて若い日本人。だから客も多く、俺の女は逃げるって悪評だったけど、背に腹はかえられないのかママはすぐにバンスをくれたんだ」