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「脱走防止には女の心のケアが最も大事」

 渡鹿野島へ女を入れるルートは当時、3つあったとXは言う。1つは前出A組の関西ルート。1つは組織Bの関東ルート。そしてもう1つは島で働いている女のコの紹介で来る、“ブッコミ”と呼ばれる直取引だ。

 バンスは女の手に渡ることはない。それはXのようなブローカーが手にする紹介料に過ぎず、女は端から200万円分のタダ働きを強いられることになる。このバンスには、さらに月1割の金利がつくという。

「当時はショートが1万2000円、ロングは4万円。例えば女が日に5万を稼ぐとするよね。うち半分は置屋の取り分で、残りの2万5000円からバンス分と女の維持費や生活費を引き、女の手元には5000円ほどしか渡らない」

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 しかし、実際には、女のコにはこの5000円すらマトモに渡っていなかったという。

〈今日の分はママが預かって、明日渡すね〉

 そう置屋のママが言い、カネを翌日払いにすることで、継続して島で働くよう仕向けるのだ。

島にあったスナック(著者提供)

 もっとも、次の日も女が全額手にすることはない。島内でのタバコ銭として1000円ほどしか渡さない。脱走防止のためだ。

「当然、女のコは納得しないよね。そこでママがバンスのことを懇々と説明して脅したり、俺がマメに電話を入れ甘い言葉を投げかけるなどの色管理をして、飴と鞭の両輪で島での売春を続けざるをえない状況に追い込むの。

 脱走防止には、女の心のケアが最も大事なんだ。電話は3日に1回と決まっていた。当然、女のコにはケータイなど持たせない。俺が店に電話をして、店のママが取り次ぐかたちでね」

 置屋にはママの他に、飲み屋で言うチーママのような長く働き信用を得た女がいる。そのチーママがリーダーとなって少数のグループを作り、女を管理している。「島を出たい」などの不平不満を吸い上げ、それをママに報告。ママから外出の指示が出ると、1人2000円程度の現金を持たされ、チーママの監視下の元にポンポン船に乗り、賢島の駅前での買い物などの気晴らしをさせるのだ。

宴会や売春で手にする金額を記したとみられるメモ。金融機関の振込先も書かれている(著者提供)

「それも週1回、1日だけ。こんな感じで、女が逃げ出す前にママと俺とで対処するシステムが確立されていた」

 それでも逃げ出すチャンスなどありそうだが、島民やポンポン船の船頭はもちろん、賢島の商店街や周辺のタクシー会社まですべてがグルのため、それも難しい。加えて、宿の部屋に盗聴器が仕掛けてあり、客も監視されているという噂もある。

「それは嘘だけど、客の顔写真を撮影し、ポンポン船の船頭に渡す。客に女を逃がす手引きをさせないよう監視するためにね。加えて新人売春婦の顔写真が貼ってある。それにサービス時に女に持たせるポーチの中には、コンドームなどの他に置屋のライターが必ず入っている。そのライターが実は探知機で、部屋に入った時間と出た時間が分かる仕組みになっているの。今はそんな厳しくないけど、当時の監視体制は相当に厳しかったみたいだね」

 ちなみにチーママは借金が終わっている女で、稼げば稼ぐ分だけ自分の実入りになる。島の出入りが自由のため、島が職場なだけで、追加の借金が無ければほとんど自由の身だ。