「間取りのナゾ」を紐解く
ところでこの物件といえば、なぜか浴室がふたつある「ナゾの間取り」でもあったのだが、今回はこの理由が判明した。
前オーナーの時代に、古い浴室の使い勝手が悪くなったため、手すり付きの新しい浴室を作り増したのだという。ひとたびは完全なデッドスペースと化した古い浴室だが、ゲストハウスに姿を変えた現在では、「ちびまる子ちゃんのお風呂みたい」ということで宿泊客にも人気なのだとか。
1Fの「洋室4.5畳」は、実際に見ると「部屋」と言うほどの空間ではなく、廊下のように利用されていた。「LDK」とされていた部分は、トイレなど水回りのための共用空間に姿を変え、階段を上がった10畳の洋室は「談話室」となっていた。
最も広い25畳の店舗部分には、地元住民も憩うアンティーク・カフェが開業。天井が高く、貴族趣味の調度品に彩られた室内は、かつての華族の住まいをも偲ばせる。
「このスペースは元々商店でした。最初は靴屋として開業し、戦後の一時期はパチンコ屋だったこともあるそうです。そして最後に営業していたのが『ほていや玩具店』だったので、その名前で文化財に登録されています」(小幡さん)
古い建物を残すのが難しいワケ
そんな「旧ほていや玩具店」は、内装も外装も、建築当時最高の素材でこだわり抜いて作られている。近代の風景を今に伝える名建築であり、文化財に登録されたのもうなずける。特に2階の和室は趣きがあって、天井に火災報知器が付けられた以外、21世紀を思わせるものは何ひとつない。
しかし、大正・昭和の名建築を遺産として残すことは難しいのだとオーナーは語る。
「歴史ある町並みの古い建物って、ほとんど中古市場に出ないんですよ。家主さんが裕福で、お金に困っていないことが多いので。でも人が住まずにいると、家はぼろぼろになって崩壊してしまいます」(小幡さん)
この町では最近も、独特の風情を残す遊郭跡が取り壊しになった。戦前の木造建築であり、解体に要した期間はわずか1日だったという。
写真=ジャンヤー宇都
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※本稿中での物件は、2018年にダイアプレスより刊行された『事故物件vs特殊物件 こんな間取りはイヤだ⁉』の第1章にて紹介したものです。間取りの図版は、同書に掲載したものと同一のデータを利用しています。
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