もとより消費増税で不景気だったところに、コロナ禍という未曾有の強烈な一撃。企業のボーナスも大幅減と伝えられており、国民の懐は寂しくなるいっぽうだ。「空から突然札束が降ってこないかなあ」なんて思いながら、自宅で無為な時間を過ごしている人も多いことと思われる。
しかしながら、仮に宇宙からラムちゃんが降りてくることがあったとしても、「土地」だけは絶対に降ってこない。土地というのは、そう簡単に増えたり減ったりするものではないからだ。そしてその土地の上に建つものが、商業ビルであり、住宅である。
だから都会の土地に関しては、一坪たりとも無駄にすまいと誰もが必死。そんな涙ぐましい努力の末に、珍物件や「ナゾの間取り」が誕生することもあるのだ。
※本稿中での物件は、2018年にダイアプレスより刊行された『事故物件vs特殊物件 こんな間取りはイヤだ⁉』の第1章にて紹介したものです。間取りの図版は、同書に掲載したものと同一のデータを利用しています。
細い!長い!すれ違いも一苦労の一軒家@世田谷
家を建てるための宅地には、一定以上の幅員を持つ道路に接していること(接道)が求められている。その都合から、「旗竿地」として区切られる売地も多い。竿のように絞られた出入り部分があって、その先に住まいを建築するので、土地の形が旗竿に見えることからこう呼ばれている。
うってかわってこちらは、「竿」そのもののような細長い敷地に、ドカンと戸建てを建ててしまった珍物件。「超・細長い家」としてテレビやネットで話題になったが、人気エリアの手頃な分譲戸建てであり、すぐに買い手が付いたのだとか。
その外観からは「電車みたい」という感想も湧くが、実際の横幅は在来線車両の半分もなく、お互いに痩せ型でないとすれ違うのも一苦労。そのかわり奥行きは20mくらいあり、これは在来線車両の1両分に相当する。
この土地に家を建てようとするのもすごいけれど、実際に設計し完成させた建築家も見上げたものだ。普通ならば廊下にしかならないようなスペースは、作り付け家具によってダイニング・キッチンに早変わり。狭い飲食店というと「新宿ゴールデン街」のバラック店舗が有名だが、それよりずっと細長い空間で家族は食事をすることになる。
移動の便宜を考慮してか、トイレが2か所にあるのも「ナゾの間取り」と言えるだろう。DINKs(共働きの子なし夫婦)向けとして販売されていたため、これを「男子トイレと女子トイレ」として使い分けることも可能かもしれない。
また、両端にエントランスがある物件も、住宅としては極めて稀だ。片方は「勝手口」ということになるだろうが、この物件の南北を通り抜けできるのは住人のみの特権となる。ただし、両方の玄関に靴や傘を用意しておく必要があったりと、いろいろ大変そうではあるが……。