13畳のLDK、6畳の和室…いい部屋が「タダ同然」の“ナゾ”
このマンションの間取り図を見るだけでは、「珍物件」とも「迷建築」とも思えない。問題はそこにはないからだ。
ファミリー向けというわけではないし、キッチンの狭さは気になるが、和室のある1LDKというのは居心地が良く、都会で一人暮らしをするなら贅沢なくらいだ。
建物も立派なものである。作られたのは昭和末期なので、「築浅」とは口が裂けても言えないが、つくりは重厚な鉄筋コンクリートで、公団住宅と比べればずっと新しい。
しかし残念ながら、この住まいは「日本一の不人気物件」になっている。どのくらい嫌われているかというと、わずか数十万円で売りに出ても買い手がつかないこともあるくらい。その理由にピンと来る人は、もう結構なお年かもしれない。
実はこれ、バブル時代に栄華を極めた「リゾートマンション」の一室なのである。所在は新潟県などスキー場の近傍で、商店のある市街地に出るためには、ここから何十分も自動車を運転する必要がある。開けた広い通りではなく、雪国の道をだ。
いまやスキーブームは去り、深夜バスでゲレンデに向かう若者もすっかり減った。また、「昔はシーハイル!と鳴らしたものだけれど、今では身体が言うことを聞かない」というお父さんも多いことと察する。したがってこれらのリゾートマンションは、固定資産税や毎月の管理費を取られるだけの「負の資産」となっている。
有名な古典『平家物語』の冒頭文には、「たけき者もついにはほろびぬ、ひとえに風の前の塵に同じ」とある。しかしコンクリートによる近代建築は、沙羅双樹の花のように簡単に土には還らない。
こういう建物にも「一時代を象徴する様式」としての味わいはあるのだが、リゾートマンションを「文化財」として保護しようという動きは皆無である。投じられた巨大な資本のことを思えば、諸行の無常を感じずにはいられない。
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