かつて中古住宅サイトに掲載され、「間取りファン」の間で話題になった物件がある。
東京駅から電車で約90分、東京都青梅(おうめ)市の駅前に所在する中古戸建てで、築年数はなんと約90年。増改築を繰り返しており、その間取りは「7LDK+店舗部分」という驚きの広さだ。図面からは省いたが、裏庭には蔵もある。
「東京都の中古戸建て」とは思えないような特殊物件の出現を受け、好事家たちは喜んで事態の成り行きを見守った。これが晴れて成約となり、2017年にはゲストハウスの「青龍kibako」が同地に開業した。
今回はこの物件につき、「青龍kibako」オーナー・小幡正浩さんのご協力のもと、ナゾの間取りの「実地検分」を行ってきた。写真が上手でない点はご容赦願いたい。
竈門炭治郎がいたかもしれない町
昭和2年築というこの建物は、関東大震災後に流行した「看板建築」という様式である。正面には近代的な店構えを飾りつつも、その後背にある居住用のスペースは日本式でつくられている。「洋」を装いつつ「和」で暮らすというのは、いかにも昔の日本人らしい発想だ。
最近は大正時代を舞台にした『鬼滅の刃』も人気だが、その頃の繁華街には、このスタイルの建物が連なっていた。ファンによれば、『鬼滅』の主人公・竈門(かまど)炭治郎の生家は奥多摩の山中だというから、最寄りの繁華街はこの青梅ということになる。
しかし看板建築には、その後の空襲で焼け落ちたものや、高度経済成長時代に取り壊されたものが多く、残存している建物は希少だ。だからこの物件は、「旧ほていや玩具店」として国の登録有形文化財にも指定されている。
実は青梅には、こういう古い建物が多い。明治大正から昭和にかけて、青梅の町は織物などの産業で栄えた。その時代に建てられた建物が、時代の荒波をのりこえ、こうしていくつか残っているのである。
「古い建物を残したかった。ここを残すことが自分の使命だと考えている」と熱っぽいのが、オーナーの小幡さんだ。現在では「大正風ロケ地」としてドラマの撮影にも利用されているのだから、彼のみならず、建物のほうも本望だろう。