「あれは鵺(ぬえ)のような奴だ……」
などと言えば、正体や本心が読めぬつかみどころのない人物像を指す。
慣用句にもなるこの「ぬえ」とは、いったい何だったか。
古くから伝わる、モノノケの類のことである。その姿は、ここに掲げた絵に描かれているとおり。たしかになんとも得体が知れず、それゆえどこまでも気味が悪い……。
平安時代に現れ記録に残る「ぬえ」
かつてぬえが現れたときの様子は、『平家物語』その他にしかと記述が残っている。
ときは平安時代が幕を閉じようとしているころ。天皇のおわす御所の上空に、夜な夜な黒雲が生じ、その内側から嫌な鳴き声が漏れ出した。天皇はこれを怖れ、病床に伏してしまう。
すわ一大事、一刻も早く怪物を退治せん。そこで武術に秀でた源頼政が駆り出され、黒雲の中へ弓を向けた。
放った矢は命中したよう。悲鳴とともに天から京の町へ落ちてきたのが、「ぬえ」だった。
このバケモノの姿がどんなだったかといえば。頭は猿で、胴は狸、尾っぽは蛇、手足は虎の形態を持つ、この上なく奇態なものだったという。
ここに上げた「ぬえ」の絵はそれぞれ、明治時代につくられた「怪物画本」からのもの、同じく明治時代の絵師・月岡芳年の手になるもの、そして江戸時代末期の絵師・一勇齋國芳によるもの。
たしかにこれは妖しげで、何をされるかわかったものじゃない。つかみどころがないというのは、否応なく不安や恐怖を煽るのだと改めて知る思いだ。