昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

井口の同点弾 おさまらないどよめき

 先頭の代打・清田育宏が初球を打って出塁した。ウグイス嬢・谷保恵美さんのハイトーンがこだまする。「6番指名打者、井口」。井口は足場を固め、バットを回転させるルーティンだ。コールは「ホームランホームラン井口!」が5回。初球はファウル。そして応援歌が始まる。

 井口打て 井口打て ララララララ
 井口打て 井口打て ラララララララ
 井口ヒット! 井口ヒット! 井口ヒット! 井口ヒット!

 
 球場全体が声を揃える。井口はバットを寝かせて構える。あちこちで背番号「6」のボードが何万と揺れている。ボールが2球。トランペットと太鼓が曲調を変えた。

 打て井口! たのむぞ井口! 打て井口! たのむぞ井口!

 増井は全球ストレートだった。第4球は149km。井口はバットにのせて押し込んだ。打球は弾丸ライナーでバックスクリーンのやや右、ライト自由席のマリーンズファンの只中へ飛び込む。同点ホームランだ。ZOZOマリンが爆発した。見渡すかぎり球場全体が「いかれぽんち」になった。叫ぶ。飛び上がる。足をバタバタする。抱き合う。泣く。バンザイする。何度も何度も井口の名を呼ぶ。ずーっとどよめきがおさまらないんだよ。あの「いかれぽんち」はすごかった。

 試合はご承知の通り、延長12回裏、鈴木大地のサヨナラヒットで決した。文字通り、井口資仁と惜別する「サヨナラゲーム」というわけだ。世間には9回裏、全球ストレート勝負を挑んだ増井を云々する向きもあると聞く。そこら辺は野球観だなぁ。僕は増井は生きた球を投げてあっぱれ、井口も今季フェンス前でおじぎしてた当たりをスタンドインさせてあっぱれ、という感じだ。ていうか、あの時空のなかではどんな球種でもやられた気がする。フォークも落ち切らず、魅入られたように真ん中の半速球になったんじゃないか。

 井口選手、21年間おつかれ様でした。まだしびれていて、あの日のショックから立ち直っていません。カッコ良かったなぁ。スピーチで言われた通り「最高の野球人生」でした。あなたと同時代に生きて、(最後まで)痛打を食らったことは、たぶん幸運というものです。野球は素晴らしい仲間や強敵がいなかったら、そもそも成立しないものだから。

21年間、おつかれ様でした ©えのきどいちろう

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/4324 でHITボタンを押してください。

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春野球をフォロー