文春オンライン

2021/03/16

怯えてしまう自分をそのまま受け入れるということ

──ICT(情報通信技術)やAIで人間の可能性は大きく広がりましたが、未来はあくまでも現在の延長にすぎないと。

池辺 世の中がどんなに発展しても、なにもかもすぐに新しくなるのではなく、古いものと新しいものが少しずつ混ざりながら変わっていくんだと思うんです。

©iStock.com

──ダメな人間を愛おしいと感じるまなざしは、池辺さんの作品に共通する優しさだと思います。

池辺 人は生きていく上で、「受け入れる」というのが大事なんじゃないかと思うんです。

 私は、記憶は蓄積された経験が身に染みついていくことだと思っているんですけど、たとえば人前で話をする時に怯えてしまう人は、もしかしたら人とのコミュニケーションに苦痛や恐怖を感じた経験があるのかもしれませんよね。「人前で話す時に怯えがちな自分を克服しよう」と考えるのではなくて怯えてしまう自分をそのまま受け入れるということ、同じように他人も受け入れる、尊重するということが大事なことかと思います。

──池辺さんの作品に登場するキャラクターはみな自分を尊重していて、自分も相手も「赦す」力の大きい人が多いと感じます。『プリンセスメゾン』の主人公・沼越さんが、他人を羨ましく思ってしまう自分に落ち込む友人を励ます「(人を)羨むくらいいい。羨んでいたって、その人の幸福を願うことはできる」というセリフには、表面だけでない真の優しさを感じます。

池辺 それはすごくうれしい。ありがとうございます。

 ダメなものを切る断捨離もいいことだと思いますが、断捨離しない生き方もステキだと私は思っていて。好きなことに固執してそこから離れられない生き方も、すごいことだと思います。無駄だ、愚かだと言われても手放せない執着があってもいいんじゃないかと。

(取材、構成:相澤洋美)

私にできるすべてのこと

池辺 葵

文藝春秋

2021年3月24日 発売

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