プリンセスメゾン』など、日常生活を細やかに描く作風が人気の池辺葵さん。はじめてSFに挑む待望の最新作『私にできるすべてのこと』がいよいよ発売になります。舞台となるのは、人間に代わり労働をするためにヒト型AIが大量生産されて20年後の未来。AIが人間の仕事を奪うという声が上がり、世界中でAIの廃棄が始まるなか、忘れ去られたような田舎町で、穏やかな日常を過ごすAIと人間の物語が描かれています。池辺さんが大事にしているという「日常」は、どのようなものなのか。「池辺葵ワールド」が生まれる背景を教えていただきました。(全2回中の2回目。【インタビュー前編、マンガ第1話第4話を読む】)

池辺葵さん(ご本人提供)

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──最新作『私にできるすべてのこと』(文藝春秋)のヒト型AIの和音が手紙を書いているシーンは、「AIなのに手書き」という意外性にインパクトを受けました。

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池辺葵(以下、池辺) あれは私も大好きなシーンなんです。手書きというところにこだわったので、着目していただけて嬉しいです。

 私は字がうまくなりたいという野望もあって(笑)、たまに写経をしたり、筆ペンの練習をしたりもしているんですけど、「手で文字を書く」という行為は、すごく好きなんです。

──池辺さんが描くキャラクターたちも、とても丁寧に暮らしているように感じます。池辺さんご自身はいかがですか。

池辺 私はいつも日常生活を漫画に描いているので、ちゃんとした暮らしをするようにしているんです。

 でもこの「ちゃんと」というのは、「丁寧な暮らし」というのではないんですよ。

「上手ではないけれど自分でご飯を作って食べる」とか、「四角い部屋を丸く掃くけれど一応掃除はする」というように、「下手でいいからちゃんとやる」という意味です。たくさん失敗しながら、それがアイデアに繋がってくるように思います。

©iStock.com

──寂しさや孤独などの苦しいシーンの中にも、ご自身の日常が反映されているのですか。

池辺 作品では日常生活を描くようにはしていますが、特定のモデルがいたり、自分自身をモデルにしたりしたことはありません。生活していて思うことや、自分だったらこう言うだろうなと思うことを時々キャラクターに言わせることはあるんだろうと思いますが、意識してセリフやストーリーに入れることはないですね。

 私が描く作品には「孤独」があるとよく言われてしまうのですが、どのキャラクターも孤独とうまくつきあっているわけでは全くなくて、むしろ寂しさに苦しんだり悩んだりして、生きづらさを感じているんです。でもそれは人生の半分で、もう半分の人生には輝くものがあるということを私は描きたいと思っていて。

 いいことも悪いことも抱えながら生きていくのが人生なので、誰だってきっと半分半分なんだと思うんです。