まだ開幕して数試合。だけど、早くも「今季のホークスのターニングポイントだった」と秋になれば振り返るような試合が生まれた。

 3月28日、開幕シリーズ3戦目の千葉ロッテマリーンズ戦(PayPayドーム)。

 1点差で負けている9回裏2死、だけど満塁だ。天国か地獄か。そんな勝負の分かれ目を託されたのは代打・川島慶三だった。

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 ただでさえ緊張する場面。それに加えて、川島にとってこれが今季の初打席だった。プロで飯を食って16年目になるが、やはりシーズンの最初は足が震えるほど緊張していた。バッターボックスに入る手前で思いっきり素振りをするのが川島のルーティンだ。しかし、この日は明らかにソワソワしていた。打席に入ってもなかなか構えない。“落ち着け、オレ”とばかりにヘルメットをとって足元の土を何度も均し、一度タイムをかけて打席を外した。

 頭の中に廻ったのは、自身が大切にする信念だった。

「結果を出すのが自分の仕事。結果が出なければ、どうなるか分かっている。常に出番があるわけではない。言い訳をしたくなるポジションだけど絶対に言い訳はしない。そう決めて、やってきた」

 腹をくくった。

 1ボール2ストライクからの5球目、相手守護神の益田直也が投じた外角いっぱいの147キロ直球にバットを合わせる。逆方向に打ち返した打球は一塁手の頭上をライナーで越えてライト線に力強く弾んだ。三塁走者に続き、逆転サヨナラの二塁走者もバンザイでホームイン。勝利の立役者となった川島は一塁を回ったところで大きく両手を上げてガッツポーズし、チームメイトが作る祝福の輪の中心に体を預けた。

 昨年まで2年連続で負け越したマリーンズを相手に開幕3連勝だ。これで心の奥底に残っていた苦手意識を完全に一掃できたと言っていい。それも今シーズンの今後の戦いにおける大きな意味を持つが、この3つ目の勝利はまた違った意味で大きかった。

サヨナラ打を放った川島慶三

これがホークスの真骨頂だ

 正直「負けゲーム」だった。接戦の終盤には失点につながる痛いミスがあった。さらに逃げ切り態勢に入った9回表の2アウトから、まさかの展開で試合をひっくり返された。それでも勝った。ただの1勝ではない価値がある。

 ミスは、7回表の三塁手・松田のエラーだ。2対2で迎えた2アウト走者なしから岡大海の打球をファンブル。2死一塁となったところで、先発の和田毅がこの日の90球目を藤岡裕大に右越え適時二塁打とされた。2対3と勝ち越されて和田はここで降板。続くピンチは2年目右腕の津森宥紀がしのいだ。守備を終えてダグアウトに戻ってきたナインの中で誰よりも悔しい表情を滲ませていたのはもちろん松田だ。ベンチに座った松田のそばに近寄り、肩をポンポンと叩いたのは和田だった。

 8回裏、ホークスが一旦は逆転に成功する。2死三塁から今年は6番起用となったアルフレド・デスパイネが左中間へ1号2ランを叩き込み4対3だ。デスパイネは前日の試合でも8回に同点打を放つ活躍で、今宮健太のサヨナラ打を呼び込んでいた。

 これはもう完全にホークスの流れのはずだった。9回表は抑えの森唯斗ではなく岩嵜翔が登板した。森は前日まで2日間とも投げており、工藤監督は「3連投をさせる時期じゃない」と試合前から説明をしていた。

 しかし、ここで2つ目の「まさか」が起きた。2死走者なしから代打・角中勝也に安打を打たれて、なお続く代打・菅野剛士への5球目だ。応援歌のない球場に響いた木製バットの衝突音。打球はライトスタンドに飛び込む2ランとなり、マリーンズに土壇場で4対5とひっくり返されてしまったのだ。

 手痛いミスも絡んで2度もリードを許せば、普通ならばもうギブアップだ。だが、ホークスは違う。最後の27個目のアウトを取られるまで誰一人諦めることなく、とことん全力で粘る。これがホークスの真骨頂だ。