脚本家の橋田壽賀子さんが4月4日午前、急性リンパ腫のため、95歳で亡くなりました。静岡県熱海市のご自宅で最期を看取ったのは、泉ピン子さんでした。

 テレビドラマ「おしん」や「渡る世間は鬼ばかり」など、ヒット作を手掛けた橋田壽賀子さんは、2017年『安楽死で死なせて下さい』(文春新書)を上梓。“最後のお迎え”についての橋田さんの率直な考えは、多くの読者の心を打ちました。

 その背景を描いた当時の記事を再公開します。(初公開:2017年8月26日。記事中の肩書・年齢等は掲載時のまま)

取材、構成:石井謙一郎

#1より続く

「若いときから死に方について考えることは、生き方を見つめ直すことになるし、人生を豊かにしてくれるはずです」。安楽死で死にたいという92歳の橋田壽賀子さんは、若い世代に向けてこんな提案をしている。少子化と超高齢化が加速度的に進む社会で、死をまっすぐ見つめることで見えてくるものとは何か。橋田さんの具体的な提案をさらに伺う。

◆◆◆

ADVERTISEMENT

子供は親に頼るな、親は子供に期待するな

 私は家族がいなかったから、ホームドラマがたくさん書けたと思っています。かりに息子などいて「お母さんはこんなこと考えてたのか」なんて思われたら、好きなように書けないじゃありませんか。手加減したりカッコつけたドラマが、面白いはずありません。親も夫も子供もいないから、誰にも遠慮せず本音が書けるのです。

©鈴木七絵/文藝春秋

 かりに親が健在だったら、私はこう言います。

「老後の世話をするのは嫌だから、自分のお金でちゃんと自分の始末をしてほしい。その代わり、遺産は一銭も要らないわ」

 冷たいですか? でも、もしも子どもがいたならば、

「自分の最期は自分で準備するから、あなたに面倒を見てもらうつもりはない。自分で稼いだお金は全部使って死ぬから、遺すつもりもない」

 と告げたでしょう。

 世の中の親は我が子のために節約を重ね、少しでも財産を遺そうとします。しかし私は反対です。私の知人の女性は、旦那さんを亡くしたあと、お姑さんの面倒を見ながら息子と娘を育てました。息子のお嫁さんも娘も働いていたので、幼い孫たちをよく預かっていました。そうやって家族の世話をすることが、彼女の生き甲斐でした。いつも私に、

「壽賀子さんは可哀そうだ。子どもがいないから」

 と言いました。子どもがいなくてよかったと思っている私には、彼女こそこき使われて可哀そうに見えたのですが、何も言わずにいました。やがて彼女は、長男一家と一緒に暮らすつもりで3階建ての二世帯住宅を建てました。ところがそのあとになって、お嫁さんが「一緒に住むのは嫌だ」と言い出したのです。

鈴木七絵/文藝春秋