1ページ目から読む
3/3ページ目

要所で汚れ役や毒のある役も演じ実力派女優に

 では、松たか子さんはどうして、キャラ変せずに品のよいキャラクターをキープし続けることができたのでしょうか。

 もちろん彼女の家柄が立派であることや、性格がもともと高潔であることは重要なファクターだったんでしょうが、彼女は出演する作品選びにも長けていたのではないかと考えています。

 清廉性のあるイメージを保ち続けるためには、そういった役柄を定期的に演じるというのは当然必要でしょう。

ADVERTISEMENT

 松さんの場合、岩井俊二監督の1998年の映画『四月物語』で、『ロンバケ』で演じた清潔感のある女子大生と似た方向性の女子大生役で主演。2001年に放送されて大ヒットしたドラマ『HERO』では、主演の木村拓哉さん演じる型破りの検事に振り回されるバディ役として、生真面目で潔癖な検察事務官を演じたことも印象強いです。

 また、太宰治原作で2009年に公開された映画『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』では、後に愛人と心中を図る小説家の旦那に尽くす気立てのいい美人妻を熱演し、翌年の日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞しています。

「ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜」オリジナル・サウンドトラック

 しかし、そういった清廉潔白な役どころばかり演じていたとしたら、イメージは維持できたとしても、一本調子の演技しかできない女優と思われ、世間にも業界にも飽きられてしまっていたかもしれません。

 松さんはそういったマンネリを避けるために、要所要所で汚れ役や毒のある役を演じてきていたのです。

 1997年の大ヒットドラマ『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ系)では、根は心優しいものの荒々しい粗暴な言動がある女性を演じています。

 2010年の主演映画『告白』では、最愛の娘を生徒に殺された中学校教師の役を演じ、鳥肌が立つような静かなる狂気を見せました。2017年の主演ドラマ『カルテット』(TBS系)で演じたヴァイオリン奏者は、実は驚くべき重く暗い過去を背負った役どころでした。

 “陽”の役柄ばかりでは演技の幅が狭い女優と思われてしまいますが、“陰”の役柄も説得力のある演技でこなす松さん。

 ちなみにプライベートでは2007年にギタリスト兼音楽プロデューサーである佐橋佳幸さんと結婚し、現在は一児の母となっていますが、これまでに品位を貶めるようなスキャンダルは皆無。最近では情報番組などに出演した際、娘との日常のエピソードを明かしよき母としての顔も覗かせています。

 “陽”と“陰”の演技をバランスよく演じ分け実力派女優という評価を確固たるものにしつつ、プライベートでも上品な清潔感を損なうようなことはしない。

 こうして松たか子さんの足跡を振り返ると、ずっと清廉性の高いイメージでいつづける偉業に、改めて驚嘆するのでした。