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「ねぇ、筒香ってどんな顔してるの?」

 がんが見つかったのは去年のことだった。「どんな治療でもやる。あきらめたくない」。そう力強く宣言して、放射線治療も抗がん剤もやった。でもダメだった。お見舞いに行っても眠っていることが多くなった。家から持ってきた小さなラジオの音だけが病室に響いていた。でも私に会えば必ず「ベイスターズは勝った?」と聞いてくる。「筒香は打ってる?」と聞いてくる。私は、ベイスターズ攻撃中のハマスタのバックスクリーンに表示される不可解なデータくらい、ポジティブなことを探して伯母に伝えた。

 伯母の、黒木、鈴木尚典の次の推しは、筒香だった。いつだったか「ねぇ、筒香ってどんな顔してるの?」と聞かれたことがあって「あのね、世界中のかわいいを全部集めてきてもまだ足りないくらいかわいいよ」と私は答えた。「わかる、そういう感じだよね」と伯母は言った。何をどうわかってくれたのか、さっぱりわからないけど、そういう伯母が好きだった。

 ほどなくして、追浜にあるホスピスに移った。もうほとんど話はできなくなった。ずっと「いつか筒香のインタビューができたらいいね」って言ってくれていたけど、私は結局何もできなかったよ。おばばにもベイスターズにも。黒木が躍動した38年前の日本一を見て、尚典が煌いた19年前の日本一を聞いて、あともう少しで、かわいい筒香がまたおばばを泣かせたはずだったのに。

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笑顔の筒香嘉智 ©時事通信社

 伯母が死んでから、ベイスターズはがんばって、ふんばって、泥にまみれて滑り込んでCSを勝ち進んで、今、日本シリーズのセ・リーグ代表として横浜スタジアムに帰ってきた。日本シリーズ第3戦、私がハマスタで見たベイスターズは、以前とは全く違う顔をしていた。1998年のような、圧倒的な支配力はない。だけどその代わりに、「勝ちたい」という気持ちが全身から溢れ出ていた。ファンはその気迫に押されるように、ワンプレー、ワンプレーに声を上げた。見渡す限りの人が、奇跡を待っていた。声にならない声が気流のようにハマスタを包み込んだ。倉本が粘って粘って12球目にヘッドスライディングでつかみ取った内野安打と、あのときの歓声を、おばばは聞いただろうか。あのときのあの音、天国のラジオではどういう風に聞こえたんだろう。

 日本シリーズは、3連敗。もう後がない。だけどなぜか清々しい。すごいものを見させてもらっている。一つの試合で選手が変わっていく様を。ベイスターズは、これからもずっと私と伯母をつないでいく。だけど負けるのはやっぱり悔しいよ。どうしてもラジオの前のおばばをもう一度泣かせたい。

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