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漁業政策、本当のポイントは資源管理にあらず――オレの争点 #4

漁業政策、本当のポイントは資源管理にあらず――オレの争点 #4

「規制改革ありき」で進む議論。漁業の実態を踏まえているのか。

2017/10/17
note

 国政選挙において漁業政策の内容が選挙の争点として注目されたことはない。漁業生産額は農業の20%以下、漁業就業者数(漁家世帯員も含めて)は総人口の0.2%にも満たないのだから当然であろう。実は、たったそれだけの就業者数で水産物の自給率が55~60%であり、10倍以上の就業人口のいる農業の40%前後を上回るのだが、「頭」数の少ない産業であるがゆえに票計算からすれば、選挙戦で話題にするまでもないセクターである。マニフェストにもあまり記載がなく、政策内容を気にするのは漁業関係者ぐらいである。

捻じ曲げられた風説が流布されている

 しかし、マイナーな分野とはいえ、「食」の観点からは消費者にとっても重要な産業である。それに昨今、漁獲量の減少を受けて消費者の不安を煽る内容がメディアに流れ、それに併せて「漁業の未来は資源管理対策で決まる」かのような捻じ曲げられた言説が流布されている。せっかくだから、漁業政策のエッセンスについて触れておきたい。

食卓への影響も…… ©iStock.com

 魚の資源量は、漁獲行為の如何に関わらず、気象・海洋環境の変動のなかで増えたり減ったりし、海流の変化によって魚の回遊ルートが大きく変わったりもする。そのことと市況との関係が影響して、大漁貧乏になったり、大不漁により経営が厳しくなったり、時には不漁だけど魚価上昇で儲かったりする。そうした乱高下が繰り返されるうちに、経営的に耐えられない漁業者が徐々に廃業し、漁業の産業規模は縮小する。日本では、こうした特性に併せてデフレ基調が強まったため漁業の構造不況が顕著となった。

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 漁業において、魚という資源を利用する以上、資源管理対策が大切であることは言うまでもない。しかし、水産資源については科学的に解明されていないことが多く、どれだけ漁獲して良いのかなどを不確実な情報で判断せざるを得ない。また資源管理対策の実施によって漁獲量を抑制しても、自然環境や変動する資源量をコントロールできないし、周期的あるいは突発的に起こる資源危機に直面したとき漁業経営を救済できない。

漁業の経営対策をどうするか

 したがって漁業政策は、そうした特性を踏まえて資源管理対策を実行しながら、それでも自然環境や経済環境に翻弄される漁業者の経営をどう安定化させるかといった点が課題となる。同時にそれは、国民への食料供給体制を守る、ということにもつながる。経営対策つまりセーフティネットをどう構築するかは、本来政策論争の争点になる。

 そこで思い出そう。かつて民主党が経営対策としての「戸別所得補償」をマニフェストに掲げ、選挙を制したときのことを。このたびの選挙でも、民進党政策を受け継ぐ形で希望の党が農政に「戸別所得補償」を掲げている。漁業においてはある程度決着が付いたと私は理解しているが、やはり経営対策をどうするかはいつでも争点になり得ると思うのである。

 わが国では、漁業共済、漁船保険といった経営危機・事故に関わる保険制度が高度成長期までに整備されていた。しかし、これだけでは激変する今日の自然環境や、新自由主義的経済環境のリスクに耐えられず、担い手が育たないとの議論が起こるようになった。民主党政権以前の自公政権下で、である。

 そして、平成20年度から新規の保険制度である「漁業経営安定対策」がスタートした。「漁業経営安定対策」は経営規模が一定以上の「中核的担い手」が施策の対象であり、漁業共済制度に上乗せする収入保険制度であった。