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山口線で行くか狭山線で行くか…“乗り鉄”アナによるライオンズと西武鉄道のディープな楽しみ方

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/06/22
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 球場に行く当日、あなたの野球観戦はどこから始まりますか?

 このコラムをクリックしていただいた野球ファンの方は、読み進める前に、少し振り返ってみてほしい。

 おそらく多い答えは、球場の敷地内に入り、グラウンドで練習する選手たちを目にして気分が高揚したあたりからだろうか。

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 私の場合、「どの電車で行くか?」を決めるところから野球観戦のワクワクが始まる。というのも、実況を担当しているFMラジオ局「NACK5」では度々話しているが、私は大の鉄道好き。なかでも鉄道に乗ることそのものが好きな「乗り鉄」なので、メットライフドームへの行き来で電車に乗るのは、単なる「移動手段」ではなく「楽しみ」なのだ。

 しかもライオンズは鉄道会社をグループ会社に持つ球団ならではの「野球と鉄道」の連携を楽しめるチームと言える。

 家を出る直前まで実況の準備をして、さぁ出発という時。西武線沿線住民の私には、ぜいたくな悩みがある。メットライフドームがある西武球場前駅へ行くにあたり、「多摩湖線で多摩湖駅へ、山口線(レオライナー)に乗り換え」か、「池袋線で所沢の1つ先、西所沢駅から狭山線」に乗るか、2つのルートから選べるのだ。

 最短は前者だが、早く着けばいいというわけではない。今の私はどんな景色を見て、どんな車両に乗れば、より気持ちよく実況に入れるか。食事のメニューを決めるように、じっくり考える。最近だとリニューアルした西武園ゆうえんちを横目に、レジャー気分が上がる多摩湖ルートがオススメだ。

 でも、“鉄分”濃いめ(鉄道を楽しむ要素強め)なら、使用する車両のレパートリーが多く、いろんな車両に乗れる池袋線ルートが魅力的。ライオンズの選手と往年の名プレーヤーが一緒にラッピングされた「L-train」をはじめ、乗り入れている東京メトロ・東急・みなとみらい線の車両に乗れるチャンスもあるから、ワクワクが止まらない。なかなか乗れないレアな車両に当たると、それだけで試合に勝てる気がしてくる。

L-train101 ©小笠原聖

野球ダイヤは“神動画”

 電車で向かう際に高揚感が止まらないのは、西武鉄道の細やかな配慮も大きい。プレーボールが近づくと、車内アナウンスで試合の案内をしてくれる。仕事で球場に通い始めた頃、西武線に乗っていて「本日の先発ピッチャーは……」という車掌さんの声が聞こえた時は、「自動放送では聞けない、今日ならではの生きた車内アナウンス! さすが西武」と驚きとともに感動を覚えた。

 鉄っちゃんにとって見逃せないのが、試合終了直後の「野球ダイヤ」だ。通常、西武球場前から池袋方面に向かう場合、2つ先の「西所沢」行きに乗り、そこで池袋方面の電車に乗り換えることが多いが、試合終了時には池袋方面等に向けて直通電車が続々発車する。

 この裏側がすごい。試合状況を見て、西武鉄道の係員が10種類以上ある臨時ダイヤの中からその日の運行スケジュールを決定する。野球ダイヤが決まった瞬間、4本先の電車まで分かる駅の発車案内板が「各停・西所沢」オンリーの並びから、「急行・池袋」「快速・池袋」「各停・保谷」「急行・池袋」……という感じで一変するのだ。

 本当は変化の瞬間も見たいのだが、実況席にいる私は見られない。しかし動画を検索すると、この「野球ダイヤ」が確定した瞬間の西武球場前駅の発車案内が出てくる。

 通常の発車案内板では、出発する時間が早い順に並んでいる。1番目の電車が出発したら2番目以降の順番が1つずつ繰り上がり、最後の4番目に新しい行き先が出現する。それが「野球ダイヤ」に変わる瞬間は、4つの電車の行き先がまとめて変わるという“神動画”なのだ。野球で言えば、ライオンズのスタメンが1日だけオールスターのパ・リーグのスタメンに変わっていたくらいの変貌ぶりである。

 メットライフドームで実況を終えると、私は「最寄り駅まで電車に乗れる!」とワクワクしながら西武球場前駅に向かう。ホームに着いて「急行・西武新宿」行きを見つけると、オレステス・デストラーデばりのガッツポーズをしたくなる。所沢から新宿線に乗り入れるレア電車で、しかも所沢で進行方向が変わる「スイッチバック」も体験できるからだ。

 所沢駅を出発する時に逆方向に動き出した車内で驚く人を見て、全てを知っている私はそっとニヤけている。

実況席での筆者 ©小笠原聖
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