ユニクロやGUで、セルフレジを使用したことがある人は多いだろう。無人化された自動レジに商品を置くと、点数と合計金額が表示され、現金やカードで会計する仕組みだ。ユニクロやGUを展開するファーストリテイリングにとって、コストダウンと顧客満足度アップを推し進める切り札の一つである。

 この便利な技術を開発したのが、大阪に本社を置くIT企業のアスタリスクだ。いま、このアスタリスクとファーストリテイリングの間で、泥沼の争いが展開されている。セルフレジの技術について、ファーストリテイリングが2019年5月に「特許は無効だ」と審判を申し立てたのだ。2021年5月20日の知財高裁の判決で、アスタリスクの特許の有効性は認められたものの、ファーストリテイリングは最高裁に上告。闘争は続いている。

 ここから見えるのは、中小企業が苦労して手にした特許という“宝”を、資本力で勝る大企業が容赦なく強奪していく構図だ。アスタリスクの鈴木規之社長に聞いた。(全2回の1回目。後編を読む)

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アスタリスクの鈴木規之社長

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アスタリスクとファーストリテイリングの争い

 大阪市淀川区に本社を置くIT関連企業アスタリスク。代表取締役社長の鈴木規之氏は言う。

「時間と手間をかけてようやく開発した技術を、なぜタダで譲り渡さなければならないんですか。それも、あたかもそうすることが納入業者として当然のことだ、という態度で迫られたら、そりゃ『腹を決めて闘おう』ということにもなりますよ」

 その言葉には「怒り」よりは「諦め」に近い感情が漂う。それは訴訟という争いに対する諦めではなく、価値観の違いから来る意思疎通の困難さに対しての諦めのようだ。

 

 アスタリスクとファーストリテイリングの争いを、時系列で見て行こう。

 元は東レのシステム系部門にいた鈴木氏は、2006年、高校時代のラグビー部の仲間と3人でアスタリスクを設立。「モノ認識」を中心とするIoT技術を生かしたシステム開発を業務の柱として業績を伸ばしていく。

 ファーストリテイリングとは2015年頃から、今回問題となっているセルフレジ以外の部分で取引が始まっていたが、当初からファーストリテイリングの対応は「渋いもの」だった。