Amazon、ヤマト、佐川急便……数々の過酷な潜入取材をしてきたジャーナリスト・横田増生氏が次に選んだのは、自分の本を名誉毀損で訴え、本の出版差し止めと2億2千万円の賠償請求を求めてきたユニクロだった(裁判はユニクロ側の全面敗訴)。

「(批判をする人には)うちの会社で働いてもらってどういう企業なのかをぜひ体験してもらいたい」というファーストリテイリング・柳井正社長の言葉は“招待状”だった。『ユニクロ潜入一年』(文春文庫)では、合法的に「田中増生」と名前を変えた筆者が、潜入した現場で見た実態をレポートしている。その一部を抜粋して紹介する。

(全2回の2回目。#1を読む)

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ユニクロ潜入一年」 文藝春秋

アルバイトの面接を申し込む

 私が〈イオンモール幕張新都心店〉のウェブサイトから面接を申し込んだのは、2015年10月1日の正午のこと。その30分後、「応募ありがとうございました」という自動配信のメールが携帯電話に届いた。

 その日は、台風が関東に接近したため大荒れの空模様であったが、夕刻にアパレルの業界紙でユニクロを担当し、柳井社長へも取材したことがあるという記者が話を聞かせてくれるというので、東京に向かっていた。4時半を過ぎたころ、見知らぬ番号から着信がある。

 携帯に張り付けた〈田中増生〉という自分の新しい名前を間違えないよう確認し、「はい、田中です!」と元気よく電話に出た。

 30代と思しき男性の声がこう言った。

「田中増生さんですか。こちらはユニクロ、イオンモール幕張新都心店の者です。今回は、当店へのアルバイトのご応募ありがとうございます。まずはお電話で、いくつかお聞きしたいことがあります」

 と前置きしたうえで、次の2点を尋ねてきた。

 一つは、土曜日・日曜日といった週末に働くことはできるのか。もう一つは、力仕事が多い職場だが大丈夫か——という質問。

 いずれも「問題ありません」と答える。

©iStock.com

 面接の日時は1週間後の午前10時30分に決まった。

 最も恐れていたのは、履歴書を送った段階で私の正体と潜入取材の意図がばれるということだった。しかし、私のことを疑っている気配は感じられず、まずは胸をなでおろした。

 その夜、私が話を聞いた記者は、2014年春に柳井社長にインタビューして書いたという「ブラック批判を逆手に内部を見直し」、「地域正社員を拡大」という記事を見せてくれた。

 記事で、柳井社長は「ブラック企業批判は1つのきっかけになった」と語り、その批判をかわすとともに、「優秀な人材、とりわけ、結婚、出産などで短時間勤務を選択せざるを得ない女性を確保するため」に地域正社員制度を立ち上げ、その当時3万人いたパート、アルバイトのうち、1万6000人を地域正社員として、社会保障や有給休暇などの待遇を正社員と同じにする、とある。ここに出てくる地域正社員制度については次章で詳述する。