履歴書は事前に、弁護士に目を通してもらった
ユニクロは日本国内に約800店舗を構える。どこの店舗で働くのかは、これから私の取材に大きく影響する。
幕張新都心店に決めるまで、私は働く店舗を探す目的で、自宅から通勤可能な数店舗を見て回った。店舗の雰囲気を探ろうとして、商品について訊いたり、在庫の有無を尋ねてみたりしたが、そんな簡単な質問をするだけでは、店舗がどのように運営されており、どのような人間関係の中で働いているのかなどわかるはずもなかった。
結局、自宅から一番近い幕張新都心店で働くことに落ち着いた。自転車で20分の距離にあった。
面接当日は秋晴れ。
緊張のためか、前夜は朝まで3回目が覚め、7時前に起床。前日に、アマゾンから届いた洒落たバックパックにクリアファイルに入れた履歴書や印鑑などを収める。履歴書の記入日は面接当日の「10月8日」で、働ける日の欄には翌日の「10月9日」と書き込んだ。当日の服装は、黒のチノパンを履き、白の半袖のシャツの上に秋用の長袖。買ったばかりのアディダスのスニーカーを履いて、伊達メガネをかけた。古典的ではあるが、メガネをかけるだけで顔の印象は変わる。
履歴書は事前に、弁護士に目を通してもらった。ユニクロへの潜入取材はこの先、どう転ぶかわからないが、たとえ再び名誉毀損等でユニクロから訴えられることがあっても、裁判で負けることがないように万全を期して臨んだ。
ユニクロのウェブサイトから専用の履歴書をダウンロードすると、学歴と職歴、資格などを記入する欄が15行ある。小学校の入学から書きはじめると、大学の卒業まででほとんど欄が埋まる。私の履歴書を見た弁護士は、こう言った。
「本当のことがすべて書いてあるわけでもないけれど、ウソは1つも書いてないので、これで大丈夫です」
時給は1000円、交通費は支払われない
私は、面接時間の5分前に店頭に到着。レジの横にある〈スタッフ・ルーム〉に入ると20畳はあろうという広い休憩室があり、その奥に8畳ほどの店長室があった。
店長室で待っていたのは、ミュージシャンの布袋寅泰(ほていともやす)を小柄にしたような店長とお笑いコンビのチュートリアルのツッコミ役の福田充徳(みつのり)似の副店長だった。面接を担当したのは副店長で、店長は店長室の奥にあるコンピュータで作業をしながら、こちらの一問一答に聞き耳を立てていた。
副店長は、アルバイトの時給が1000円であることや、交通費が支払われないことなど基本的な条件を説明する。
幕張新都心店は、ユニクロでいう大型店に分類される。平日の売上げは500万円前後で、休日は11000万円前後という店舗。アルバイトを含めた従業員数は約60人だ。