「残業は可能なんですか、午前11時から午後11時とか?」
開店と同時に店舗に向かうと、店頭で布袋店長が待っていた。店長室で、10月の出勤可能時間を書く。
私が出勤可能な時間帯に、すべて「10時から23時」と書くと、布袋店長が覗き込んで「そんなに働けるの?」と目を輝かせる。
ちょっと書きすぎたのかと思い、「いやいや、そのうちの週3、4日ということでお願いできれば、と思っています」と私。「これなら、午後1時半から11時の遅番もいけるね。休憩は1時間半だけれど、大丈夫ですか。残業は可能なんですか、午前11時から午後11時とか?」と布袋店長が迫ってくる。
どこまでこき使われるのだろうかと思いながら、それもまた一興と思い、「できます」と答えておく。
あとになって、出勤予定日はiPodで入力することになったが、当時は手書きで、出勤できる日を書いて提出していた。出勤できない日には、出勤できない理由を書くようになっていた。ユニクロでバイトをはじめたばかりの人にはありがちなことなのだが、出勤できない理由がない限り、出勤可能日を全部提出させられてしまい、思っていた以上に出勤日を入れられてしまう、ということである。
本人控えのない誓約書を提出
そのあとで、店長と契約書を作成。雇用契約書と身元保証書、誓約書に記入する。雇用契約書には本人控えがあるが、誓約書はユニクロに提出するものだけ。
私は、これが悪名高い誓約書か、と思ってA4サイズの1枚の用紙にしげしげと見入った。
誓約書の文字の下には、「株式会社ファーストリテイリング/株式会社ユニクロ/代表取締役 柳井正殿」とあり、「㈵. ファーストリテイリンググループ コードオブコンダクトに関する誓約」からはじまって、「㈽.企業秘密に関する誓約」、最後に「㈸.損害賠償」——までの5項目が並ぶ。
ユニクロの現役社員はもとより、元社員に取材するときでさえ、「会社とは辞めた後も有効な守秘義務契約を結んでいますから」という言葉で、これまで何度も取材を断られてきた。その元凶である誓約書が、ようやく私の目の前に現れた。
しかし、これには本人控えがないため、「どんな内容が守秘義務にあたるのか」と尋ねても、具体的な答えが返ってきたことは一度もなかった。それが今、目の前にあるが、A4用紙の全部をノートに書き留める時間はない。私は諦めて署名して店長に渡す。
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潜入したユニクロ店舗で横田氏は何を見たのか。潜入は見破られなかったのか。続きは、『ユニクロ潜入一年』に収録されている。