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ユニクロに潜入取材したジャーナリストは、こうしてアルバイトに採用された

面接日の夕刻、店舗から電話が入った……

2020/08/06
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3つある働き方の中から長期アルバイトを選んだ

 ユニクロは立ち上げ時の1980年代には、店舗面積を150坪に統1した郊外のロードサイド店を大量に出店した。しかし、2006年ごろから約500坪の大型店を「今後、ユニクロの成長エンジン」とすることに方向転換した。現在では、標準店の面積は250坪前後となり、次は大型店、そのうえに1000坪の超大型店、さらにグローバル旗艦店がある。背景には、「ユニクロがグローバルブランドとして世界企業に伍していくには、店舗の大型化が絶対に不可欠」という柳井社長の強い意向があるという。

 面接が始まると同時に、私は「メモを取ってもいいですか」と了解を得る。これまでの取材で、ユニクロの複数の関係者から、上司の話を聞くときメモを取っていなかったという理由で、こっぴどく怒られたという挿話を何度も聞かされていたからだ。私はこれ以降、ユニクロで働くときは、ポケットに入るサイズのノートを常に携帯し、時間をみつけては誰はばかることなくメモを取りつづけた。働き終わるまでに溜まったメモは30冊を超えた。

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「ユニクロは年中無休で店舗運営をしているので、繁忙期やクリスマス、大晦日から正月にかけてはできるだけ出勤してほしいんです」と福田似の副店長は言う。もちろん、できるだけ協力させていただく旨を答える。

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 ユニクロのアルバイトには3つ種類がある。

 2カ月間だけの短期アルバイト、半年ごとに契約を更新する長期アルバイト(月間100時間未満の労働)、準社員(月間100時間以上の労働)——である。短期アルバイトは十分な潜入取材とならないため、私にとっては論外である。準社員としてガッツリ働くのもおもしろいかな、と思いながらも、ユニクロ関係者への取材や海外の委託工場への取材も並行して行うつもりだったので、私は長期アルバイトを選んだ。この後に働く2店舗でも長期アルバイトとして働く。

緊張で喉がカラカラに

 私が恐れたのは、現在の仕事を尋ねられること。履歴書には現在の仕事として、「自営業」と書いていた。

「自営業とは何をしているのですか」という問いに、

「ネットで注文を受けて、その注文をこなして、出来上がったものをネットで送り返すのが仕事です」とだけ答えた。原稿の注文の多くはネット経由で依頼がきて、記事が出来上がるとメールで送るからである。

 福田副店長(以下、布袋・福田は2人の仮名とし、他の従業員の名前にも仮名を使う)の「働くときの服装はユニクロの商品を着てもらいます」という言葉で面接が終わろうとしたとき、布袋店長が「最後に1つだけ聞かせてください」と割り込んできた。

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「店員の多くは田中さんよりずいぶんと若いのですが、年下の人たちから教えてもらう立場になっても大丈夫ですか。福田君が28歳だっけ、29歳か。私が30歳です。それでも問題はありませんか」

 50歳という私の年齢に関する質問も想定の範囲内である。

「教えてもらうのに、年の差は関係がないと思っています。私には問題ありません」

 と答えたところで、面接が終了。

 面接の結果は、10日以内に連絡がくるという。

 どうにか合格できますようにと細心の注意を払って受け答えするのと同時に、ウソをつかないよう気を使ったため、わずか30分の面接であったが、終わったときには、緊張感で喉がカラカラとなっていることに気づいた。