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ユニクロに潜入取材したジャーナリストは、こうしてアルバイトに採用された

面接日の夕刻、店舗から電話が入った……

2020/08/06
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即日採用、翌日出勤

 幕張新都心店から電話が入ったのは、その日の夕刻のことだった。

 ちょうど私は台所で、夕食を作りながら、面接が終わったことを祝って赤ワインを開けていた。

 電話をかけてきたのは、福田副店長だった。

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「今日は面接にいらしていただき、ありがとうございました。急な話で恐縮ですが、明日、店舗に来ていただくことはできますか」

 翌日、入社の手続きがあるのかと思って話を聞いていると、

「10時に店が開くので、そのタイミングで来ていただいて、その後、午後5時ごろまで働けますか。休憩1時間をはさんで、6時間勤務となるのですが」

 と副店長は言う。

 採用と同時に、翌日の出勤要請に、思わずガッツポーズが出そうになる。

 ユニクロで働きはじめることなしに潜入取材は成立しない。第一関門突破である。

「お客様の中で販売員になってもらえそうな人を、即勧誘して頂きたい」

 これだけ早く採用が決まるということは、果たして、ユニクロが人手不足に陥っているということなのだろうか。それとも、アルバイトやパートが次々に辞めていくような険悪な雰囲気の職場なのだろうか。

 その答えは働きはじめた後に読んだ、ユニクロの〈部長会議ニュース〉に書いてあった。

 部長会議ニュースは、毎週、休憩室のホワイトボードにA4の紙が貼り出される。部長会議は常に〈トップの指示〉つまり柳井社長の叱咤激励からはじまる。たとえば、10月31日の部長会議ニュースで柳井社長はこう檄を飛ばしている。

「今月から12月と思って行動しなければいけない。7月・8月からスタッフ採用しているが、まだ完了できていない。店長・SVに伝えて、お客様の中で販売員になってもらえそうな人を、即勧誘して頂きたい。それぐらいのことをやらなければ、感謝祭および11月・12月を乗り切ることができない。今日から即実践する必要がある」

©文藝春秋

 各企業が人手不足のために頭を悩ませる中、ユニクロもまた来店した顧客を店員として勧誘するという裏技、というか奇策をとらなければならないほど人手不足に陥っていた。特に、11月と12月の書き入れ時には、どれだけ戦力があっても足りない。そう考えると、50歳である私が雇われた理由がわかった。猫の手も借りたい、という状態だったのだ。

 初出勤時に気を付けたのが、自分の持ち物。まだ、ペンネームとなった〈横田〉という名前が入っているものもたくさんあった。キャッシュカードにクレジットカード、出版社からもらったスケジュール帳——など。それらを、店舗に持っていくのはまずい。例えば、〈YOKOTA〉と書いてあるクレジットカードを店舗で落としたら、と考えただけで恐ろしくなる。〈横田〉の名前が入ったものはすべて1つのバックパックにまとめ、〈田中〉の名前があるものをもう1つのバックパックに詰めてユニクロ専用とした。