「お前、疑っているのか?」
同社では、2019年12月にも、実在しない機器やソフトを次々に販売して各社が実体のない売上高や利益を計上する「循環取引」が発覚した。昨年のうちに芋づる式に不正が表面化し、東芝や富士電機の連結子会社など少なくとも7社の関与が明らかになった。
その中でも中心的役割を果たしたとみられるのが、ネットワンシステムズで一貫して中央省庁案件を担当したバリバリの営業マンだった。
彼は架空案件が監査対象になると、部下に必要書類を集めさせ、架空取引であるのに、納品を確認したとするメールの返信を、架空の受注先会社に依頼する偽装工作もしたという。このような、社外の者まで巻き込んだ偽装工作によって、4年以上も発覚を逃れてきた。一方、疑念を抱く部下には「お前、疑っているのか?」と叱責し、それ以上の質問を封じ込めることもあったという。
公認会計士が機能していなかった例も
不正会計を指摘する報告書のなかには、監査役会も会計監査をする公認会計士も機能していなかった可能性を指摘する事例もある。
ジャスダック・スタンダードに上場していたものの今年3月に上場廃止となった事務機器製造などの「日本フォームサービス」(東京都江東区)は、社長が会計操作の先頭に立っていた。決算期末が近づいた経営会議では社長みずから「来週の社長ミーティングまでに今期の経常利益をプラスマイナスゼロにまで持っていく案を出してくれ」などと、各部門の担当者に、事実上粉飾の案を出すよう指示していたことが明らかになっている。調査に対して社長は「赤字にしないためには仕方がなかった」と語っている。
同社の内部監査は、担当する総務部長が14年6月から空席で機能していなかった。監査役会も開かれず、監査役は、先頭に立って会計操作を実行した経理担当者が作った監査報告書に押印するだけだったという。調査報告書は「監査の専門職である会計監査人がその業務を適切に行っていれば発見できたものもあったのではないか」と指摘しながら、「会計監査人の監査の適否に対する調査は当委員会の目的外」とした。
このように、公認会計士の監査については、検証を避けたり、表面的な扱いにとどまったりする調査報告書が多い。
株主が起こす損害賠償の裁判では、上場の際の主幹事を務めた証券会社の責任を認める判決も出ている。しかし、粉飾などの会計不正を減らすためには、日々、帳簿をチェックし、経営者に接することも多い公認会計士に、さらに厳しい目を向ける必要がある。
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詳しくは「文藝春秋」7月号および「文藝春秋 電子版」掲載のレポート「粉飾決算 公認会計士の罪と罰」(松浦新)をお読み下さい。
粉飾決算 公認会計士の罪と罰
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