投資家をだまして資金を集める粉飾決算など、上場企業の不適切な会計処理が、コロナ禍のなかでも高水準で続いている。民間調査会社の東京商工リサーチによると、2020年は58社60件あり、過去最多だった19年(70社73件)に次ぐ高水準だった。
中でも目立つのがIT企業によるもので、国や市町村の公共システムの仕事が不正会計の主な舞台になっている。菅政権は9月に「デジタル庁」を新設して、コロナ対策で露呈したデジタル後進国の建て直しをはかるというが、旗振り役の平井卓也デジタル改革担当相は「NECを干せ」などと発言して迷走中。しかし、足元では架空や水増しの取引による背任・横領事件まで起きている。
「裏金」の温床になりやすい公共案件
警視庁は6月6日、東証1部上場のシステム開発会社ネットワンシステムズ(東京都千代田区)の元社員を背任容疑で逮捕した。架空の保守管理業務を取引先に発注したことにして会社に約2億円を支払わせ、複数の取引先を経て、最終的に約1億7000万円を私的に得た疑いが持たれている。
会社はこの案件を昨年10月に公表。弁護士や公認会計士らによる「外部調査委員会」が発足し、12月に調査報告書をまとめた。そこには、公共システムが「裏金」の温床になりやすい実態が詳しく分析されている。
報告書によると、公共案件には以下のような欠点が内在しているという。
(1)受注額が大きいほど入札時点でシステムの中身である仕様の細部が決まっていない。
(2)受注後に予期せぬ要望がでることで、追加の費用が発生しやすい。
(3)役所の予算は決まっており、追加の請求がしづらい。
こうした不都合に備えるため、ネットワンシステムズでは原価の見積りに余裕を持たせることが多く、仕入先に余裕資金を上乗せした発注をする慣行があった。そのための資金は、裏で「リスク費」ないし「プール金」と呼ばれていた。
IT音痴の行政が丸投げしている
裏金が発生しやすい背景として、公共システムは丸ごと受注されることが多いという点がある。そのため、外注品の取り扱いが多く、多重下請けにならざるを得ない。ということは、架空や水増しの発注の機会もそれだけ増えるということだ。
ところが、入札時点で仕様の細部が決まっていないと、架空または水増し取引で仕入先に資金がプールされても、見積もりや納品時点のチェックがききにくいという。
こうした丸投げが横行するのは、新型コロナウイルスの接触確認アプリ「COCOA」の例で見られたように、行政のコスト意識が低いうえにIT音痴のためともいえる。