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 でも、学問とは「私って何?」から出発します。私にとっては、女であることは巨大な謎でした。その謎を、資格や権威を持つ専門家ではなく、当事者である女性自身が仲間と共に追究するのが女性学です。最近、当事者研究が流行りですが、なんだ、そんなことなら私たち、ずっと前からやってきた、と思ったものです。実際、やり始めたら面白いし奥が深い。それからずっと、私は「私利私欲で研究をしている」と言い続けています。

 2016年に放映されたドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」。女性の生きづらさや家事労働の価値を問いかけた海野つなみさんの漫画を原作にしたドラマは、幅広い世代からの人気を得た。遡ること40年、1980年代にマルクス主義フェミニズムに出会った上野さんは「家事も対価を伴う労働である」といち早く声をあげていた。

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家事労働の価値を問いかけ、2016年にドラマ化もされた漫画『逃げるは恥だが役に立つ』(講談社)

 かつて、私たちフェミニストが「家事も労働だ、しかも不当に支払われない不払い労働だ」と主張した時は、専業主婦からの猛バッシングがありました。「私たちのやっていることは愛の行為であり、お金に換算できない価値がある!」って。それが、あのドラマが放映された時には「よくぞ言ってくれた!」的な反響に変わりました。30年経てば、かつての「非常識」が常識に変わるんだな、と感慨深かったですね。

 学問の世界には「人間の生命維持の活動のうち、第三者に移転可能な活動を労働とする」という定義があります。最近は家事や育児はもちろん、出産まで第三者に移転できる時代になってきていますが、当然それら全ては労働です。もちろん介護もその一つ。介護保険がもたらした大きな変化の一つは、これまで女が家でやってきた介護という労働はタダではない、という常識が定着したことだと思います。

ドラマ「逃げ恥」では新垣結衣と星野源が契約結婚の夫婦を演じた (c)共同通信イメージズ

20代、30代のフェミニストが素直に声を挙げられる理由

 最近、私はフェミニズムについて世代的な変化を強く感じています。#MeTooやフラワーデモの主体である20~30代の若い女性たちは、強い平等意識を持っています。「こんなバカげたことを我慢する理由は何一つない」と、声を挙げる女の子がこんなに大量に登場したのは、日本の歴史上初めてのこと。

 ただし、彼女たちはフェミニズムが何かをよく知りません。ウーマンリブが日本にあったことも知らない。その代わり、フェミニズムがバッシングを受けたことも知らない。両方を知らないからこそ素直に声を挙げられるのでしょう。彼女たちにフェミニズムを何で知ったか尋ねると、韓国の小説『82年生まれ、キム・ジヨン』やアメリカの女優のエマ・ワトソンの国連スピーチを挙げてくる。私としては「日本にもあったんだけど……」って思いますけど(苦笑)。