社会学者・上野千鶴子さんの『在宅ひとり死のススメ』(文春新書)が売れている(6月8日現在、20万5000部)。自宅でひとり幸せな最期を迎えるための準備と心構えを伝える本作は、介護保険制度の現状を知らしめる究極の介護研究本。日本における女性学 ・ジェンダー研究のパイオニアである上野さんは、介護研究のパイオニアでもあった。

 発売中の「週刊文春WOMAN vol.10(2021年夏号)」はジェンダー&フェミニズムの大特集。その中から上野千鶴子さんのインタビューをお届けする。

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「女の研究を女がやったら、学問じゃない」と批判が

 時々「上野さんはフェミニズムを離れちゃったのか」と悲しむ人がいるのですが、『在宅ひとり死のススメ』は最強のフェミ本だと思っています。

上野千鶴子さん (c)文藝春秋

 なぜなら女性学は当事者研究だからです。私たち女性学の研究者が何をやってきたかというと、女の経験の言語化と理論化。私自身が若かった頃は「恋愛」や「性」が目の前にある課題だったし、子どもを産まない選択をした私にとっても「出産」や「子育て」は、やはり大きな課題でした。

 そんな私もだんだん年をとって40歳を過ぎた頃に見えてきた新たな課題が「老い」だったのです。そして、高齢女性たちの実態を調べるうちに、「介護」にも自然と目が向き始めました。私もそのうち要介護認定を受けて介護保険の利用者になる。そう考えれば「介護」もやはり女の課題の一つです。つまり、フェミニズムやジェンダーという用語を使わなくてもフェミ本は書けるということなのです。

週刊文春WOMAN vol.10(2021年 夏号)

 40年前、女性学に出会った時は、「自分自身を研究対象にしていいんだ」と、まさに目からウロコが落ちる思いでした。人に言われなくても何かをやりたいと思えたのは、あれが生まれて初めてだった。

 でも、当時は女性学は学問として認められていなかった。学問の世界に「学問とは中立的で客観的でなければいけない」という強い思い込みがあったからです。

 女性学を「女の女による女のための研究」と定義したのは、私より少し先輩にあたる和光大学名誉教授の井上輝子さんですが、「女の研究を女がやったら、それは主観的だから学問じゃない」と、ものすごい批判を受けました。「女のための学問」に対しても「何かの利益のために研究するのはイデオロギーであり学問じゃない」と言われたり、「女の人たちは理論に弱いから、僕たちがやってあげよう」と言い出す男たちがいたり。