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樹海を歩いていて、一番奇妙だった落とし物は...

 樹海に来たキャンパーがいろいろな物を残していくケースも多い。岩を組んで窯を作り、火を焚いて料理をして、そのまま鍋や皿などを全部放置して帰った跡もあった。しかも大型のテントもそのまま残してあった。富士山の周辺には(樹海の中にも)キャンプ場がたくさんあるので、そちらでやって欲しいものだ。

樹海入り口に立てられた看板 写真=村田らむ

 そして、自殺者(自殺志願者)が残していったテントもある。樹海でしばらく過ごしたあとに、覚悟を決めて自殺をする場合もあるし、死ぬのはやめて帰っていく人もいる。

 前者の場合は基本的に死体を回収に来た警察が撤去する。ただ、意外と作業が雑な場合も多く、いろいろ置き去りにされていってしまうことも多い。樹に結わえられたロープ、自殺解説本、ロープの結び方の本、地図などが落ちている。

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 初めて樹海に行った時、写真の顔部分が焼かれた免許証と、カセットテープを見つけた。家に帰ってそのテープを聞いてみると、クラシック曲が録音されていた。最期に、荘厳なクラシックを聞きながら死のうと思ったのだろうか?

 時代の変化とともに音楽を聞く機材も変わっている。カセットテープは見なくなり、CDの束が見つかったり、MP3プレイヤーが見つかったりすることもあった。

 携帯電話や携帯ゲーム機が落ちていたこともあった。ちなみにゲーム機には、野球ゲームのソフトが差してあった。

 服が捨てられていることも多い。背広が見つかると、おそらく自殺者のものだろうなと思う。樹海に散策を目的に訪れる人は、背広は着てこないからだ。下着が散らばっていることも多い。樹海散策者に聞くと、下着が散らばっているそばには自殺死体があることが多いという。しばらく樹海の中で生活したあと死ぬのだろう。下着などは洗って干したりしたのかもしれない。

木に括りつけられたネクタイの落とし物 写真=村田らむ

 樹海を歩いていて、一番奇妙だった落とし物はブーツだ。

 散策中にふと上を見上げると、かなり高い位置の樹の枝にブーツが片方だけ引っ掛けられていた。枝にヒモで括ってある。しばらく歩くと、もう片方も掛けられていた。

 見た目はジョークっぽいので笑ってしまったが、よく考えると気味が悪い。

片方だけのブーツ 写真=村田らむ

 まず、なぜ樹にブーツを吊るしたのかが謎だ。中まで湿ってしまったので干すためかもしれないが、だったらなぜそのまま放置して持ち帰らなかったのか? 裸足で樹海をうろつくのは、もちろん不可能だ。自殺を決定づける痕跡は近くになかったが、自殺しなかったなら彼(彼女)は何を履いて帰ったのか? 考えれば考えるほど気持ちが悪い落とし物だった。