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松井秀喜選手と対戦するときはストライクゾーンを12分割しないと打たれる

三浦 僕はコントロールがいいと言われる方かもしれませんけど、先発して100球投げたら、自分の思った通りに投げられるのは20球あるかないかです。それをここぞという勝負所で使えるかどうかですね。毎球ピンポイントで狙うなんて出来ないし、そもそもスコアラーさんと話して初球はインコースしか狙っていない打者に対してだったら、外に投げればいい。よくストライクゾーンを9分割してと言われますが、僕は外か内か、上か下かの二分の一のどちらかに投げればいいという感じで狙っていました。でも時には、たとえば松井秀喜選手と対戦する時は、12分の1で狙わないと打たれるという雰囲気がありましたからね。スコープじゃないですけど、狙いをカウントや相手打者によって、大きくしたり小さくしたりということです。それも試合での緊張感や集中力があって出来ることで、ブルペンではそこそこ出来ますけど、子供とバッティングセンターに行って、人がいない時にこそっと遊びで、ストラックアウトを当てようとしたら全然当たらない。

投げるスタミナには体力的なスタミナと精神的なスタミナがある

佐藤 逆にそういうものですか。

三浦 僕がよく言うのは、投げるスタミナには体力的なスタミナと精神的なスタミナが絶対にあると思うんです。いくら球数が少なくても、ピンチが続くと、ずっと失点をしなくてもだんだん疲れる。いや、すごく疲れる(笑)。だから僕は打席でも、打てないと分かっていても打つ気で一生懸命フルスイングしていました。逆に僕が投げていて、打席で打つ気のある投手がいると嫌ですし、相手が少しでも精神的なスタミナを使ってくれれば、次の攻略の手助けになるかと思ってたんです。

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佐藤 投手が出塁すると、上位打線につながってチャンスになりますしね。三浦さんのその気持ちが、ギネス世界記録(プロ野球公式戦で投手が安打を放った最多連続年数)を生んだんでしょう。

三浦 それはバッティングが好きだったのもあるし、ノンプレッシャーで打席に立てたからですけどね。

お茶の淹れ方や靴の並べ方まで小姑みたいに注意する(笑)

佐藤 先日、三浦さんが横浜の若手投手の4人とキャンプ前に自主トレーニングをしているのを同行取材させていただいたんですけれど、三浦さん自らノックをされて、ずいぶん選手の方は走ってましたね。

佐藤多佳子さん ©杉山秀樹/文藝春秋

三浦 僕がそうだったんですけれど、1月の自主練の時は、ワイワイ言いながら運動量を増やしたいと思ったんです。この時期は楽しく、別にサッカーでもいいし、山登りでもいい。遊びでやったほうが身体ってうごくんですよ。

佐藤 あの山に登るのは、私は相当、きつかったんですけど、毎日登っているんですか。

三浦 そうですね。やっぱり人工芝の球場って平らなんですけど、山登りは傾斜があって、階段のところも高かったり低かったり、バランスを取りながら地面を自分で感じながら登っていくというのは、原始的なやり方かもしれませんけど、自主トレの時期にはちょうどいいかと思ってずっと取り入れてます。

佐藤 自主トレは合宿生活で野球談議もするとのことでしたが、どんな話をされているんですか。

三浦 自分が現役の頃のピッチングのチェックポイントや練習方法、とにかく色んな話をしますが、旅館に泊まって一緒に食事もするので、細かいんですけれど、お茶の淹れ方とか(笑)。小姑みたいですけど、「湯呑みが五つあったら、ちょっとずつ入れてかないとお茶の濃さが最初と最後では違うだろう」とか「玄関で先輩の靴をきちんと並べておけば、出ていく時にそのまま履いて出られるから気持ちいいだろう」とか、そういう心遣いも話します。あんまり小言にならないよう、同じような視線で話すようにしてますけど、そういうことが出来ると野球に対する姿勢も変わってくると思いますしね。