【巨人監督・菊地選手より推薦文】
 文春野球で過去に阪神、日本ハムの担当としてコラムを執筆している河野さんですが、“12球団箱推し(全球団を応援していること)”を公言しています。箱推しの立場から、もっともアンチが多いと言われる巨人の魅力を書いてもらえたら……と思い、オファーさせていただきました。人間の本能に訴えかける河野さんの文章をご堪能ください!

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最初に

 ザイオンス効果というものを知っているだろうか。大学時代に講義で聞いた程度の知識だが、今でも記憶に残る。人やモノに接する回数が増えれば増えるほど、その対象に好印象を持つようになる心理現象のことだ。「単純接触効果」とも呼ばれ、企業の営業活動や恋愛のテクニックにも活用されているという。

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 正直に記すと、私の家系は先祖代々阪神ファンだ。幼い頃から、祖父母の家を訪れたときも、日々の食卓でも、巨人の話題が上ることはほとんどなかった。テレビで野球中継やキャンプ中継を観るにしても、そこに巨人の姿はなかった。さらに、友人にもジャイアンツファンはほぼいなかった。私の交友範囲が狭いこともあるが。たまたま、ジャイアンツファンにあまり接触せず育った。山崎まさよしさんの歌詞をお借りすると「育ってきた環境が違うから好き嫌いはイナメナイ」ということだろうか。

 つまり、私にとって「ザイオンス効果」が最も発揮されていない球団が、読売ジャイアンツなのである。巨人情報が欲しければ、自分から探しに行け。巨人は迎えに来ない、こちらが迎えにいけ。現に、東京で一人暮らしを始めてから初めて東京ドームで試合を観たときは「これが巨人……!」と不思議な感動があった。

 そんな私にも、今や巨人に大好きな選手が複数存在する。始まりは、好きな選手が巨人に移籍したり、高校野球で好きになった選手が巨人に入団したりしてのことだった。そしてその選手を追っていると、同じ試合に出ているあの選手のプレー素敵だな、という風に「好き」が広がっていった。いわば「好きの連鎖」だ。

 ふと思ったのだ。逆に言えば、こんなに有効な心理現象も使わずして好きになれた選手がいる、ということはかなりすごいのではないか。追い風がある状態より、無風の中、バックスクリーンにホームランを叩き込むほうが力を要するのと似ている。

 というわけで、今回のコラムには、私の中に生まれた「好きの連鎖」をつづってみる。

©河野万里奈

好きの連鎖

 最初に巨人の選手を好きになったケースは、「イバちん」こと井端弘和選手だ。私はソフトボール部に所属していたが、井端モデルのグローブを使っていた。ろくにフライも捕れない部員だったが、左手にそれがあるだけで巧くなれた気がしていた。今でもFUNKY MONKEY BABYSの『あとひとつ』が東京ドームで流れると(現在は大城卓三選手が登場曲に使用中)、井端選手が打席に向かう姿がオーバーラップする。引退後は、一塁ランナーコーチ目当てで試合を観る楽しみも教えてくれた。おそらく選手の性格に応じて様々に思考を巡らせながらベース上で声をかけている姿は、状況に応じた神ポジショニングや神判断を見せた神守備を思い出させてくれる。

井端弘和 ©文藝春秋

 そんな井端コーチから「好き」のバトンが繋がったのは山本泰寛選手だ。阪神に移籍したためこのコラムでは深く触れないが、井端コーチの口からたびたび語られる山本選手は、ユニークで魅力的だった。