「良い意味で視聴者を裏切ってきたこと。『相棒』がこれだけ長い間、日本人に受け入れられてきた理由は、これに尽きるでしょう。一瞬眉をひそめるけれど、心の奥底では、そういう予想外のストーリーや杉下右京という少し変わった人物を人々は求めてきたのだと思います」
俳優・水谷豊(65)はそう語る。
10月18日にテレビ朝日系ドラマ『相棒 シーズン16』がスタートした。2000年から放送している、日本を代表する刑事ドラマである。水谷は主役の警視庁特命係係長・杉下右京を演じている。
ドラマの撮影が行われているスタジオで取材に応じた水谷は、“右京さん”の格好で現れた。ブラックのスーツにワインレッドのネクタイとチーフ。ポマードで撫でつけたオールバックの髪に銀フレームの眼鏡。お馴染みのスタイルである。
しかし、印象はドラマとは異なる。普段の水谷は“右京さん”特有の慇懃な語り口ではなく、身振り手振りを交えフランクで軽快に言葉を紡いでいく。かつて演じた『男たちの旅路』(NHK・1976年~)の杉本陽平や、『熱中時代』(日本テレビ・1978年~)の北野先生のような、明るいけれどどこか陰のある青年がそのまま齢を重ねたようなイメージだ。
17年という長い期間、向き合い続けてきた「杉下右京」について、水谷は次のように語る。
「(右京を演じる上では)一見、冷たいけれど、よく話を聞いてみると、言っていることは正しいじゃないか、と思わせたかったわけです。情をかけない優しさをどう表現するかということを大きなテーマとしてきました」
さらに、水谷は「『相棒』は“大人のドラマ”だ」と言い、その条件のひとつとして、「物語のところどころに『毒』が撒かれていること」を挙げた。
「正確には『(視聴者が)クセになっても大丈夫な毒』というべきでしょうか」
「毒」とはいったい何なのか――。水谷のインタビュー全文は『文藝春秋』12月号に掲載されている。