ドラフト会議まで1か月を切った。中日ドラゴンズの注目選手は誰なのか。米村明チーフスカウトに電話取材した。毎年、明確に方針を示す米村スカウトだが、今年は困惑の声が漏れた。理由はコロナだ。
「去年は春からの半年間が活動自粛でしたが、今年はどの選手も丸1年、本来の練習ができていません。成長するはずの選手が横ばいなんです。特に高校生。甲子園も見ましたが、今の状態が実力なのか、本当はもっとできるのか、非常に評価が難しい。畔柳(亨丞・中京大中京)にしても、元々の上半身の強さで150キロを投げますが、選抜以降に調子を落として、夏も今一つ上がりませんでした。大学も国立は緊急事態宣言が出ると、すぐに練習が中止になりますから、佐藤(隼輔・筑波大)も本来は150キロを超える真っ直ぐを投げますが、練習不足が心配です。野手は真っ直ぐを捉えられない選手が多いですね」
米村スカウトは試合だけではなく、練習を足しげく見に行くのがポリシーだ。
「性格を把握するためです。でも、今年はそれがなかなかできない。悩ましいですね」
練習で性格を見極めた例は枚挙に暇がない。
「金光大阪時代の吉見(一起)がそうです。彼はブルペンの整備を一切下級生にさせませんでした。普通は『おい、やっておけ』です。平田(良介)はマシンを打たず、常に手投げの球を打つんです。そういうこだわりも練習で初めて知れる。打撃練習が終わったら、投げてくれた選手にいつも深々と頭を下げていました。何気ない仕草に本性は出るものです」
ドラゴンズの補強ポイントは「即戦力の野手」
補強ポイントはどこか。
「打線の強化は必要でしょう。防御率は12球団ナンバーワン。4点取れれば、勝つ確率は上がるはずです。即戦力の野手は欲しいですね」
4人の大学生の名前が挙がった。
「まずはブライト(健太・上武大)。全日本選手権で活躍して大舞台での強さも見せました。4年からレギュラーになって、キャプテンになって、自覚も出てきました。集中力のある時は超人的なプレーをします。ただ、時々ポカがある。感情の起伏が激しいのかもしれません。上武大の谷口(英規)監督は厳しい方なので、その辺りは問題ないのか、少し不安があるのか、練習を見て判断したいんですがね」
次に慶応大学の正木智也。
「当たれば、飛びます。先輩の郡司(裕也)に聞いても、とにかく飛ばす力を持っていると。少しタイミングを取るのが遅いので、全体的に詰まり気味で打率は低いですが、飛距離が魅力。バンテリンドームでは長距離砲が育ちにくいと、以前は俊足巧打の野手を採ってきましたが、ここ最近は石川(昂弥)など長打を期待できる選手も指名しています。避け続けるのはいかがなものかと」
駒沢大学の鵜飼航丞は中京大中京で伊藤康祐とともに甲子園に出場した。
「パワーは人並外れています。身体能力が高く、足も速いし、肩も強い。鍛えたら化け物になるでしょう。うまく育てば、秋山幸二。ただ、彼も確実性に欠けます。理由は毎回フォームが変わるから。研究熱心で試行錯誤を繰り返していますが、悩み過ぎないで欲しいですね」
関西大学の久保田拓真の評価も高い。
「まず、キャッチャーとして地肩が強く、捕ってからが素早い。ただ、持ち味はバッティングです。外野にコンバートしても、十分レギュラーが獲れる素材。ただ、2位までには消えそうですね」
現状は根尾昂、石川昂弥をはじめ、高松渡、石橋康太、岡林勇希、土田龍空など若手野手は豊富だ。それだけに高校生の野手を上位指名するのは難しいかもしれないが、好素材はいる。
「前川(右京・智弁学園)は将来的にバンテリンドームでも20発打てる力があります。田村(俊介・愛工大名電)も完全に野手評価。一発で仕留める能力に長けています。あとは阪口(樂・岐阜第一)ですね。彼は真っ直ぐに強い。去年、夏の岐阜大会で加藤翼の150キロを完璧にホームランしました。今年はヒットを欲しがって、少しバッティングが小さくなったのが残念。3人ともタイプとしては松中(信彦)のようなイメージです」