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 若い女性を中心に53人がバス3台に乗せられた。ただ妹は一緒だった。向かった先は、旧約聖書にも登場したことがある古都でイラク第2の都市モスルだった。ISの手に落ちた施設に運ばれた。到着するなり、シャワーを浴びるよう指示された。皆、不安な表情を浮かべていた。泣きだす子もいてISの戦闘員に殴られた。シャワーを終えると、15人ほど別々の部屋に閉じ込められた。

「自分たちはこれからどうなるのか」

「父や母、兄たちはどうなったのか」

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 自身の将来はもちろん、家族の行方も案じた。心の晴れないその日の晩に、ナイフを持った男3~4人が大声を上げながら部屋に入ってきた。

「お前たちは不信心者の『悪い』女たちだ」

 そうののしりながら、3~4人の女性を連れ去った。

「彼女たちも自分たちも狼のような男たちにレイプされ、性奴隷にされてしまう」

 そう直感した。一晩中、震えが止まらなかった。

殴られレイプされ、逃走に失敗すると約1000ドルで転売された

 3日後には年長の男が入ってきた。私や近くの妹と目が合った。嫌な予感がした。

「俺は、お前かその女かのどちらかを選ぶ」

 凄みがあった。悪い予感は的中した。怖かったが12歳の妹は守らなければいけない、ととっさに思いつき懇願した。

「彼女はまだ子供なので、私を選んでください」

 連れて行かれたのはホテルだったが、性奴隷の女性たちが多数収容されていた人質ハウスだった。

 男はISの現地司令官で、男のボディーガードも、野獣のように私に襲いかかってきた。涙が止まらなかった。恐怖と悔しさと、出口の見えない不安に押しつぶされそうだった。

 男はモスルの住人だった。自宅に運ばれ、同居の母親に「使用人」を連れてきたと紹介された。男の母親から「なぜここに来たのか、どこから来たのか」と尋ねられた。故郷がISに襲われて拘束され、レイプされた事情を話した。すると彼女は「これからは家族の一員だから」と慰められた。だが現実は違った。男が戦闘から帰宅する度に、殴られ辱めを受けた。抵抗することはできなかった。

「イスラム国」(IS)から逃れ、母親らと1年5カ月ぶりに再会したヤジド教徒のナスリーン・アハメッド。以前の明るさは消えふさぎ込むことが多くなった=2016年5月、イラク北部クルド自治区のドホーク郊外(写真は一部修正) ©三井潔

「こんな生活を続けていたら生きている意味はない」

 3カ月後のある晩、逃走を決意し、街で助けてくれそうな商店主を見つけ頼み込んだ。快諾し家にかくまってくれたが、IS側に密告され連中の施設に引き戻された。目の前に立ちはだかったのはアミールという男だった。

「なぜ逃げたんだ」

 怒鳴られながらプラスチック製のパイプでたたかれ、レイプされた。そこには、同じ境遇の若い女性3~4人がいたが、自分は数日後に他のISメンバーに売り渡された。ある時に人質の女性たちと逃走計画を練ったが、夜目覚めると置き去りにされていた。同胞に裏切られたのだ。自分の運命を呪った。暴行を受け、避妊薬を渡され、レイプされ、そして売り飛ばされていく。そんな奴隷生活が続いた。自分の「値段」は800~1000ドルだと後から知らされた。