王者の末脚がさく裂するのか。

「十分、巻き返せる」「逆転優勝のチャンスはある」

 試合後の囲み取材。工藤公康監督はどんなに悔しい敗戦の直後でも、最後は決まって真っ直ぐ前を向き直す。そして、我々記者たちの顔を見回しながら明るいトーンで会見を締めくくる。冷静に考えればかなりの苦境に立たされた場面は今季何度もあった。しかし、そのやり取りが変わることはなかった。

ADVERTISEMENT

 組織のリーダーが前を向けば、チームは勝利への執着心を失うことはない。それがホークスだ。

今年のホークスは「らしい」戦いをなかなか出来なかった

 ペナントレースは第4コーナーをとっくに回り終えて、もう最後の直線勝負に入っている。ここにきてホークスの試合運びや勝ち方に「らしさ」が戻ってきたように見える。

 他球団は中心選手の離脱が目立ち始めた。だが、ホークスは逆に戦力が整ってきた。やはりホークス十八番の必勝継投のメンツがやっと勢揃いしたのが大きい。9月になって、7日に森唯斗、10日に岩嵜翔、15日にリバン・モイネロがそれぞれ一軍に戻ってきた。

 20日のイーグルス戦で森が144日ぶりの復活セーブを挙げた。その前に8回のマウンドではモイネロが1回無失点でホールドを記録した。

 25日のファイターズ戦では4−2の7回から岩嵜、モイネロ、森が無失点リレー。岩嵜は森とモイネロが不在のあいだ守護神を務めていたこともあり4カ月ぶりのホールドをマークした。2人のセットアッパーにホールドがつき、森がセーブを記録する「勝ちパターン」を発揮したのは、じつに4月21日以来、約5カ月ぶりだった。

 序盤で先行して逃げ切る。かねてからホークスはそういう野球を好んできた。

 しかし、今年のホークスは「らしい」戦いをなかなか出来なかった。接戦に強かったはずなのに、何度も取りこぼした。前半戦の数字だが、1点差試合をホークスは6勝13敗と大きく負け越した。それに限れば12球団ワーストの勝率だった。

 自慢のブルペン陣はたしかに主役不在できつい戦いを強いられた。だが、今シーズンはとにかく打てなさ過ぎた。

 色々要因はあるが、最大の誤算はグラシアルの離脱だ。ホークス打線の中軸を担う柳田悠岐と栗原陵矢は十分に頑張ってくれている。しかし、ホークスの戦い方を振り返ってみると、外国人打者が機能するか否かがチームの浮沈にそのまま比例した歴史がある。

 2014年と2015年のリーグ連覇の時には李大浩がいた。しかし、その主砲が去った2016年はV逸。打線強化のために2017年に補強したのがデスパイネだった。翌年にはグラシアルが加入。昨年までの4年連続日本一は、2017年シーズンが起点だ。

何がキューバ砲の復調につながったのか

 今年9月、チーム状態が上向いてきたのは、今のホークスにおいて一番のキーマンともいえるデスパイネの復調による部分がかなり大きい。今季前半戦は散々だった。5月3日に下半身不調もあったが、打撃不振も理由に一軍登録を抹消された。その後キューバ代表として参加した東京五輪予選の試合で左肩を痛めてしまい、再来日後もしばらくはリハビリ組だった。

 前半戦は打率2割2厘、1本塁打、6打点。これが最近は急激な上昇カーブを描いている。9月の月間成績は打率.347、4本塁打、19打点。特に9月ラストカードだったライオンズ戦は3試合で2発9打点の大暴れだった。

 28日の試合では“天敵”に891日ぶりに土をつけた。

 ホークスはこの日相手先発だった高橋光成に対して2019年4月21日に勝って以来、3季にまたがり9連敗を喫していた。デスパイネのバットが、その最悪な流れを止めてくれた。2回裏、バックスクリーン右へ特大の5号2ランを放って先制。すると、この回さらに甲斐にも11号2ランが飛び出した。

「最初の2点も大きいですけど、そのあとの2点で4点取れたのは大きかった。ピッチャーからすればある意味、大胆にいける気持ちと、先頭打者をきっちり取っていこうという気持ちになれたと思う」(工藤監督)