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桐谷健太『火花』を語る「上京したての絶望を考えたら、俺もやるなあと」

文庫LOVE

2017/11/22
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諦めない才能みたいなのがあったから

――『火花』はくすぶっている人のための映画じゃないかと思います。桐谷さんは苦労された時期をこえて結果を出している。そんな桐谷さんの実人生も重なって、観る人の胸にぐっと迫るところがあるように思います。

桐谷 ほんまですか? 俺も5歳からテレビの画の中に入る人になりたいと思っていました。運やまわりの人の支えがあり、こうやって主演をやらせてもらえて、ほんまありがたいと思います。上京したての絶望を感じていたころを考えれば「俺もやるなあ」と思わないでもない (笑)。でも、ほんまに真っ暗闇の時期を経験したから、神谷のセリフが言えたんだと思います。「やらんかったらよかったって思う奴もいてるかもしれんけど、(淘汰された奴らの存在って)絶対に無駄じゃないねん」。実際、役者を途中であきらめた友達のことも思ったし、俺も消えかけていたけど、消さずに火を灯し続けられた。諦めない才能みたいなのがあったからやれただけで、どうなるかわからなかったですから。

――芸人や俳優に限らず、すべての、夢をあきらめた人に向けられた言葉なのかもしれません。

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桐谷 そうですね。神谷のあのシーンのセリフはすごく好きです。演技でも、「誰もやらない芝居をしてやろう!」と思った時点で、他の役者がいて、そんなライバル心を持てたから、成立すること。実際は共同作業のようなものですよね。誰も恨む必要はないし、誰に嫉妬することもない。「絶対に全員必要やってん」は、すごいセリフだと思います。

――映画のラストには、菅田将暉さんと「浅草キッド」を歌われています。いかがでしたか?

桐谷 板尾創路監督が、「関西の芸人の話やけど、『浅草キッド』を歌うことによってまた広がりが出る」とおっしゃったんです。僕も好きな歌だったし、作品の人物と重なる歌詞。めっちゃ気持ちを込めて歌えました。前奏なしに、桐谷のアカペラからはいってほしいと監督がおっしゃったんです。あの歌が流れてエンドロールが終わるまで、板尾演出なんやなと思いました。

――最後に、小説『火花』の推薦文をつけるとしたら?

桐谷 わあ。国語のテストみたい。難しいな(笑)。

 そうですね。神谷目線で言うと、「認められようが認められまいが、自分が面白いと思う、生き方をするんや」……ですかね。

©松本昇大

撮影/松本昇大 ヘアメイク/石崎達也 スタイリスト/岡井雄介

INFORMATION

映画「火花」
11/23(木・祝)全国東宝系公開
監督:板尾創路/原作:又吉直樹/出演:菅田将暉、桐谷健太、木村文乃http://hibana-movie.com/

【桐谷健太さんがすすめる2冊】

『火花』 又吉直樹
売れない芸人・徳永が、天才肌の先輩芸人・神谷と出会い、互いに夢を追いながらも道を違えていく様を、細やかな筆致で描く。「神谷にも徳永にも芸人さんたちにも感情移入しました。くだらん話をしながら1日が過ぎていくところとか、わかる! と思いながら読みましたね。実写化するなら神谷は健ちゃん合うと思う、と友達が言ってくれてうれしかった」

火花 (文春文庫)

又吉 直樹(著)

文藝春秋
2017年2月10日 発売

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『片想い』 東野圭吾
哲郎は、大学のアメリカンフットボール部の同窓会の帰りに当時マネジャーだった美月に遭遇。彼女は男の姿をし、殺人を犯したと告白した。「自分たちが一番輝いていた時期を取り戻すために主人公は奮闘します。友情をとるのか、真実をとるのか。いろんな夫婦のあり方も示しているサスペンスをお楽しみください(笑)」

片想い (文春文庫)

東野 圭吾(著)

文藝春秋
2004年8月4日 発売

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桐谷健太/きりたにけんた 1980年生まれ。大阪府出身。ドラマ「九龍で会いましょう」(02 CX)で俳優デビュー。主な出演作にドラマ「ROOKIES」(08 TBS)、「龍馬伝」(10 NHK)、「カインとアベル」(16 CX)、「片想い」(17 wowow)、映画『オカンの嫁入り』(10)、『バクマン。』(15)、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(16)、『彼らが本気で編むときは、』(17)など。16年にアルバム『香音――KANON-』をリリース。

桐谷健太『火花』を語る「上京したての絶望を考えたら、俺もやるなあと」

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