子どもっぽい、読みにくい、ヘタ……。文字にコンプレックスを持ったまま、大人になったという嘆きを反映してか、昨今「美しい文字の練習帳」がたくさん出版され、よく売れている(総合ジャンルの上位100位台に2冊、1000位まで5冊。2017年11月12日~18日アマゾンジャパン)。とはいえ、本当に上手になるのか? 「守るべきコツを押さえれば必ずうまくなります」。写経作家として活躍しながら、一般のお弟子さんに美文字のさらに上をいく「上品な文字」艶文字を教える西村真翔さんが、動画つきで簡単な美文字練習法を教えてくれた。
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多くの文書がワープロ書きとなった今だからこそ、やはり、手書きの葉書や手紙には、特別な暖かみを感じるものです。年賀状でも、手書きの美しい文字が少し添えられているだけで、印象は格段にアップします。
そんなニーズを反映してか、ここ数年「美文字」ブームが続いており、独学できる「美文字」の練習帳も数多く出版されています。これらの練習帳は、ほとんどが、お手本の字をまねる臨書や、薄い字をなぞって書くなぞり書きのアプローチで、美文字を習得するものです。
ところが、『字が汚い!』(新保信長著・文藝春秋)で様々な練習帳にトライされた新保さんが、「薄く印刷されてるのをなぞったり、お手本を真似して書いてるだけでは、本当の字のきれいさは身につかない気がする」「美文字的お手本を見て漠然と真似してもあまり意味がないことは確信した」と、書いておられる通り、そういった練習帳で、日常生活で使えるまでに、短期間で上達するのはなかなか難しいのです。
ではどうすればいいのか? ここでは、もっとも手っ取り早く字をきれいに見せる方法をお教えしましょう。
1つめは、「ひらがなを優先的に練習すること」。
ひらがなは、48文字しかありませんが、日本語の文章の7割~8割を占めると言われています。つまりいろいろな漢字の書き方をたくさん学ぶよりも、まずひらがなだけを集中して学べば、労少なくして、文章全体を美しく見せる効果が高いのです。ひらがなは一般的にバランスがとりにくく難しいと思われがちですが、私が『艶文字ひらがな練習帳』の中で提案している、ひらがなを図形ととらえ角度や比率をふまえて書く方法であれば、誰でも短期間でマスターできます。
2つめは、「線質をなめらかに美しくすること」。
直線的な漢字に比べ、曲線的なひらがなは、線自体の美しさが、全体のイメージに大きく影響してきます。その中でも難しいのが、まっすぐな直線部分と、丸く回る曲線部分をなめらかにつなげるSラインの書き方。たとえば、「つ」でいうと、最初は曲線で入り、直後に直線になって、さらに曲線になって最後ははらう……という風にSラインが使われています。これが滑らかに書けると美しい線になるのですが、このためには、曲線と直線を滑らかにつなぐSライン練習をするのが近道です。
そして3つめは、「文章を書く時は、正中線(真ん中に通っている線)を意識すること」。
ひとつひとつの文字の形が美しくても、それがバラバラの方向を向いていたりゆがんでいては美しくは見えません。逆に文字の形がそれほどでなくても、文字のバランスがよく正中線がしっかり通っていると、それだけでも美しく見えるものです。
たとえば、薄い一筆箋や便箋に、別添えの罫線を下敷きにして書く時、普通は罫線と罫線の間に文字を書くと思いますが、これだと初心者の方は、ゆがんでしまうことがよくあります。
ぜひ一度、下敷きの罫線を正中線ととらえて、罫線の上に文字を書くようにしてみてください。こうするだけで、正中線がしっかりと通って、驚くほど美しく見えるようになります。
以上の、字を手っ取り早くきれいに見せる3つのポイントをふまえ、「艶文字ひらがな練習帳」もご参考に、年賀状の季節までに、字を美しくするおけいこにぜひトライしてみてください。
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西村真翔(にしむら・しんしょう)
1957年生まれ。名古屋市在住。幼少より書道を始める。40代から写経作家として、現在では希少な金字経(金泥を鹿膠で練り写経後、磨ぎをかけて光り輝く経典に仕上げる1300年前から伝わる技法。国宝や重要文化財に多い)に取り組む一方で、書道や写経の指導にも携わる。「20年ペン字をやっても上達しない」という生徒さんに、どのように教えるべきかを研究する中で、文字を図形としてとらえ、比率や角度などを考えて書くことで、誰でも短期間で字が上達する「艶文字メソッド」を考案。本書が初の著書となる。